“物忘れ”と深く関わっているワーキングメモリとは? 脳科学者に聞いた。
撮影・青木和義 イラストレーション・黒猫まな子 文・嶌 陽子
ワーキングメモリは、いわば〝脳のメモ帳〟。会話や料理、買い物などができるのはこれのおかげ。
歳をとるにつれ、少しずつ増えてくる物忘れ。その原因となっているのが「ワーキングメモリ」という脳の働きの低下だ。具体的にはどんなものなのか、篠原さんに聞いた。
「ワーキングメモリとは、文字どおり作業(ワーキング)のための記憶(メモリ)。単に記憶するのではなく、何かの作業をするために一時的に情報をとどめておく働きのことです」
たとえば、レシピを読み、そのとおりに料理をする。人に聞いた道順に従って目的地に行く。相手に聞かれた質問を覚えておいて答える。こうした普段の行為においても、私たちはワーキングメモリを使っているのだ。
「ワーキングメモリは、脳の前頭前野と海馬の連動によって短期記憶を行っています。人間の前頭前野は他の動物に比べて巨大で、ヒトをヒトたらしめている部分。ですから人間は動物の中でワーキングメモリの力が抜きん出て高い。これがあるからこそ、人間はコミュニケーションを取る、学習をする、計画を立てるといった活動ができるのです」
ワーキングメモリは情報を整理したり処理したりする際の「脳のメモ帳」のようなものだと考えると、より分かりやすい。
「ワーキングメモリの機能が弱い場合、一度にやることがたくさんあるとパニックになりがちです。ですが、そもそもワーキングメモリとは情報を一時的に置いておく場所なので、容量には限界があります。メモ帳の枚数でいえば3〜4枚が限度。『あのこと』『そのこと』『このこと』『その他』くらいで、頭の中はいっぱいになってしまうのです」
たとえば、服や日用品を整理する際、「いるもの」「いらないもの」「保留のもの」と3つに分ける。ノートにメモする時も、3〜4つのグループにまとめて見やすくする、など。普段は意識していなくても、私たちは案外ワーキングメモリの容量に合わせた作業をしているのである。