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ひたすら開放感に浸る!? │ 『ツッコミロケット』│ 山口恵以子「アプリ蟻地獄」

イラストレーション・勝田 文

これほど単純明快なゲームアプリがあるだろうか。

『ツッコミロケット』。張り扇を持つキャラを指でなぞって、隣人を飛ばすだけのシンプルなアプリ。無料。
『ツッコミロケット』。張り扇を持つキャラを指でなぞって、隣人を飛ばすだけのシンプルなアプリ。無料。

張り扇を持つツッコミ役が「なんでやねん!」「キャラ濃いねん!」「無理!」「これは愛なのよ!」「なんか嫌!」「ぬうおりゃ〜!」等、漫才のツッコミが言いそうな台詞を表示しつつ、バットのように張り扇を振るってボケ役をかっ飛ばす。

ボケ役はまるでロケットのように飛んで落下。その飛距離を競う。

張り扇の軌道を指先でスイングし、力加減を調節する。だからその人のテクニック(と言うほどのもんじゃないけど)次第で、飛距離は伸びたり縮んだりする。

ボケ役が飛ぶときはロケットのような飛行音が響き、落下して飛距離が出ると拍手が湧き起こる。

私はいきなり二万九千キロ強を出して編集者に驚嘆され、その後四万キロの大台に乗せた。万雷の拍手が湧き起こり、自画自賛する私。

始める前は「何じゃ、こりゃ?」と思っていたが、今やすっかりハマってしまった。目指すは五万キロだ。

突然ハッと気が付いた。このゲームはゴルフの打ちっ放しに似ている。黙々とスイングして飛距離を伸ばす。玉が遠くへ飛んで行く開放感は、バッティングセンターよりゴルフ練習場に近いだろう。

新型コロナウイルスの自粛要請の中、河川敷のゴルフ練習場にはお客が詰めかけていた。あれを見たときはアホかと思ったが、やっている本人はすごい開放感なのだ。

ツッコミロケットのお陰で、ゴルフの快感を覗き見た気がする。

山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。最愛の母と過ごした最期の日々を綴ったエッセイ『いつでも母と』(小学館)。

『クロワッサン』1023号より

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