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『昭和なくらし方』小泉和子さん|本を読んで、会いたくなって。

人間の手でできることはたくさんある。

こいずみ・かずこ●1933年、東京生まれ。登録文化財・昭和のくらし博物館館長、石見銀山の国指定重要文化財・熊谷家住宅館長。『女中がいた昭和』など著書多数。本書には「掃除の歴史」など生活史の視点から書かれたコラムも多数掲載。
こいずみ・かずこ●1933年、東京生まれ。登録文化財・昭和のくらし博物館館長、石見銀山の国指定重要文化財・熊谷家住宅館長。『女中がいた昭和』など著書多数。本書には「掃除の歴史」など生活史の視点から書かれたコラムも多数掲載。

撮影・谷 尚樹

「やっぱりね、自分の手の力を失ってしまうのは人間として怖いことですよ。この本では、昭和のくらし博物館や同じく私が館長を務めている島根県大田市の熊谷家住宅で開催している家事講座、自家製の梅干しなど保存食の作り方も紹介していますが、一昔前なら誰でもやってきたこと。普通すぎて申し訳ないくらい(笑)」

生活史を専門とする工学博士・小泉和子さんは、生まれ育った木造2階建てを「昭和のくらし博物館」として公開(登録文化財小泉家住宅)、昭和30年前後の生活の展示や企画展、講座などを随時開催している。本書では「電気に頼らない、買わない・捨てない、始末のよいくらし」という副題どおり、エアコンのない夏の過ごし方、リサイクルや虫干し、電気を使わない掃除の仕方など「これならできそう」な実践方法を紹介。

「そう、誰にでもできることです。しかも、自然も土地も豊かな田舎じゃなくてこの狭い東京でもできる。道の端にどくだみやよもぎが生えてればお茶になるし、夏みかんが余ったらマーマレードにすればいい。掃除機がなくても箒とお茶殻で掃除すれば電気いらずです」

それは、人間の手で行うことのできる生活技術だ。

「今は掃除もボタンひとつでロボットがやってくれる時代。トイレの蓋の開け閉めまで自動だったりしますね。しかしそれは無防備じゃないかと私は思う。そんなに生活のすべてを明け渡してだいじょうぶなのかって。福島の原発事故の時もそうでしたが、すべてを頼っていては、電力不足だなんだと脅かされておろおろするしかない」

だから、まずは自分の頭で考えることが大切だと小泉さんは言う。

「自分の手でできることはたくさんある。機織りまでしろとは言いません(笑)。江戸時代には戻れないけれども、高度経済成長期以前くらいの生活技術は持っていたい。昭和30年代くらいのね。洗濯機はあるけど乾燥機はない、一部電化くらいがちょうどいい。生き残るにはもっとプリミティブに、自分が自分を食べさせる最低限の力を持ってないと。結局、自分たちが選択するしかありません。コマーシャリズムにつきあうことはない。私はここで止めときますよ、と、人によって止める部分は違ってくるでしょうけど、衣食住の分野においてしっかり考え、選択するということが今一番大事なことなんじゃないかしらね」

本当に生活に必要なことは何か、考えるきっかけをくれる一冊だ。

河出書房新社 1,600円
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