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【香港#02】スタンレー・青空と青い海のセンチメンタルジャーニー。

文・岩瀬大二

赤柱 スタンレーには香港島・セントラルのターミナルからからバスに乗って約30分でたどり着く。

赤柱 スタンレーには香港島・セントラルのターミナルからからバスに乗って約30分でたどり着く。

香港のイメージを画像で検索してみる。ヴィクトリア・ピークからの夜景、中国語と英語が入り混じった九龍の極彩色の町並み、ひしめくようにそびえる摩天楼群、美味しそうに湯気をあげる飲茶に海鮮料理。もちろんこれこそ香港だ。東アジアに生まれた奇跡のハイブリッドシティ。世界中から富が集まり、中国の悠久の歴史と欧州の伝統、そのふたつの獰猛さが、活気と幻想を生み出す。世界中の人々の野心も挑戦も喜びも引き寄せる、幸せで魅惑的な魔都。

と、少し大げさなような(でも実際に歩いてみると大げさではない)よく知られた香港の姿だけれど、実は香港には少し移動しただけで、イルミネーションと極彩色の看板の魔都ではなく、心の底からくつろげる青空がある。香港島、山を越えて、繁栄の象徴である中心街の裏側へ。赤柱。中国名ではチェチュウ。英国風の表記なら、スタンレー。そこが小さな楽園だ。

香港島のバスターミナルで、8.4香港ドルを料金ボックスに入れ、6A、6X の急行バスに乗りこむ。それが小さな楽園へのチケット。途中、山に上がっていくと、建物はリゾートマンションに富豪のお屋敷といったいかにも高級なものに変わり、駐車場の車もいわゆるスーパーカーばかり。急な坂道と狭く曲がりくねった道を、2階建てバスとは思えないスピードで走らせる、寡黙だけれど熟練の運転士。普通の路線バスなのにちょっとスリリングなアトラクションだ。それだけでバス代のもとを取った気分で楽しんでいたら、わずか30分で静かな町にたどり着く。

バスターミナルから坂を下りるとそこは楽園への入口。

バスターミナルから坂を下りるとそこは楽園への入口。


海側からスタンレーのメインプロムナードを望む。

海側からスタンレーのメインプロムナードを望む。

例えるなら、小さな小さなニース、陸続きのバハマ・ナッソー、シドニーはボンダイビーチの明るさ、横浜・山手の瀟洒な小路が一緒になったような町、いや、村というべきか。青い海のリフレクションがまぶしい。街中の乳白色の空ではなく、澄んだ青空が見える。強く、でも優しく乾いた日差しだ。ただ広く水平線が広がるのではなく、中国らしい起伏のあるランドスケープに取り囲まれ、果てしない海と空のブルーの交わりと、箱庭的なかわいらしさを同時に楽しめる。

海辺に並ぶオープンエアのレストランはイタリアン、フレンチ、ビーチバー、パブと続く。どこもスペシャリティは、どうやら中華アレンジではないフレッシュなオイスターのようだ。ピルスナータイプの生ビールと…と迷いながら、結局、シャンパーニュをオーダーする。店の主人は、日本人の来訪を喜び、話しかけてくる。「俺は一度、築地に行ってみたいんだよ!」と店のPCで、彼が東京で行きたい場所を見せ、僕にリサーチをかけてくる。

僕はといえば、店に飾ってあるラグビーの数々のユニフォームを肴に主人と盛り上がる。そう、香港はラグビーカルチャーのひとつのアイコン。英国人がもたらしたラグビーは、香港繁栄のために異文化を吸収しあい、尊重し、スクラムを組み、さまざまな圧力に屈せずに歴史を作ってきた香港人たちのカルチャーそのものなのだろう。

オープンエアのレストランには欧米人の姿が多い。

オープンエアのレストランには欧米人の姿が多い。

欧米の海辺のリゾート地の雰囲気。

欧米の海辺のリゾート地の雰囲気。

在住の人も観光客も入り交じり、散策やおしゃべりを楽しむ。

在住の人も観光客も入り交じり、散策やおしゃべりを楽しむ。

マダムがちょっと1杯、ワインを飲んでさっと席を立つ という粋。

マダムがちょっと1杯、ワインを飲んでさっと席を立つ
という粋。

もともと赤柱半島は監獄があり、良港の裏側ということもあって、どこか縁遠い、ダークサイドのイメージもあったという。それが緑と青、涼と癒しを求めた欧米人たちがこの地に居を移してきたことで、小さな楽園が生まれた。今も、少ない便数だけれども使われているフェリーポートは、香港総督が上陸した由緒正しいものだ。

「The English Riviera」。イギリスのインディロック&エレクトロニックバンド、メトロノミーが2011年にリリースした同名のローファイアルバムを思い出す。アルバムのスタートはかもめの声、青空のリゾートなのにどこか物憂げなサウンド…決して明るい歴史ばかりではない香港、そしてここスタンレーに似合う。青い海と青い空に癒されながらも、涼風を少しセンチメンタルに感じる。今日みたいな陽光の日もいいけれど、きっと、雨のスタンレーもいいんだろうな、ふとそう思う。

ビールに読書。ここが香港だとは思えない風景。

ビールに読書。ここが香港だとは思えない風景。

心地よく飲み干すシャンパーニュ。選んだのは「ルイ・ロデレール」。

心地よく飲み干すシャンパーニュ。選んだのは「ルイ・ロデレール」。

香港総督が上陸したという由緒正しいフェリーポートが残る。

香港総督が上陸したという由緒正しいフェリーポートが残る。

それはまるで夢のような、センチメンタルな色の空と海。

それはまるで夢のような、センチメンタルな色の空と海。

オイスターを6ピース、シャンパーニュも程よく飲み干して帰路へ着く。行きと同じようにバスに揺られ、中心部へと向かう。小さな青空の楽園から、夕刻のラッシュアワー、そして喧騒と矯声の九龍に戻っていく。この夜は湾内クルーズ船での2日目のステイだ。スタンレーの港とは比べ物にならない、巨大でモダンなショッピングセンターに併設され、国際級の豪華客船が停泊する九龍のフェリーターミナルから、再び、香港の海へ出る。甲板で涼風を浴びれば、スタンレーの空をもう懐かしく思い出す。

香港の夜景は、一度その中に入ってみると、ただのアッパーなだけの極彩色、喧騒ではない。この船のデッキから、雨の夜景も見てみたい。その時はきっと、スコッチをオンザロックスで。ここでも、素敵なセンチメンタルが蘇る。パワーばかりじゃなくて、感傷こそが明日のエネルギーをもたらす癒しになることもあるし、また、浸ってばかりでは何も動かないのだ、とも思う。青空のスタンレーが教えてくれた香港のもうひとつの魅力を感じてみる。香港、パワーもセンチメンタルも。存分に。

 

[hidefeed]取材協力・スタークルーズ
     オーバーシーズトラベル[/hidefeed]


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