妄想を膨らませて中東の絵本を味わう。│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」
落語の演目数あれど、題名と中身にもっともギャップがあるのは「らくだ」じゃないかと思う。初めて聞いた時「え、これ!?」となった。有名な大ネタだし、「らくだ」なんてトボけた題名から、きっと朗らかに笑える噺だろうと期待していた。ところが(ものすごーく乱暴にいうと)死体取り扱いの噺なのだ。設定がシュールすぎる。タイトルからの妄想と実際があまりにもかけ離れていて、脱力したのをおぼえている。
さて、今回はイランの絵本展へ。ずらりと並んだペルシャ語の絵本(しかもほとんどは表紙だけしか見られない)を前に、わたしの妄想力はスパークした。日本語に訳されたタイトルがめちゃくちゃ気になるのだ。『ごきぶりねえさんどこいくの?』
…イランではごきぶりは嫌われ者ではないのだろうか? 『カラスたちは鳥インフルエンザにかからない!』…いや、かかるでしょう。SFか? 『画伯とずる賢いネコ こうだったのが、ああなった。』…わー、なにがどうなったんだ、知りたい!
イランでは年間数千冊の子どもの本が出版されているという。絵のタッチも、右から左へと読むペルシャ語のフォントもじつに多種多様。詩を愛するお国柄なので、古典的な叙事詩を題材にした絵本も多い。カレンダーは西暦、イラン太陽暦、イスラム太陰暦(へジュラ暦)の3種ある。ところどころに貼られた解説パネルを頼りに、読めない言語の絵本を妄想で「読んで」いく。なんだか時空を超えて旅をしているような、ふしぎなひとときでした。
『詩と伝説の国―イランの子どもの本』
国際子ども図書館(東京都台東区上野公園12-49)にて7月21日まで開催。イラン文化に深く根付いた詩や伝説を題材とした作品等を170点以上展示。TEL.03-3827-2053 9時30分〜17時 月曜、毎月第3水曜、国民の祝日・休日休館 無料
金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。
『クロワッサン』1000号より
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