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心に潜む“感情”を生涯描き続けた画家ムンクの人生とは?

うねうねとした不穏な空や海を背景に、両手を顔に当てた人間が佇む。世界中の誰もが知る名画「叫び」を描いたノルウェー人画家のエドヴァルド・ムンク。東京都美術館でムンクの約60年の画業を振り返る大回顧展が開催中の今、ムンクの絵画を楽しむためのコツを、本展の学芸員に聞いた。

文・上條桂子 撮影協力・ノルウェー大使館

自分自身を突き詰めて人間の精神性を描く。

《地獄の自画像》 1903年 油彩、カンヴァス 82×66cm
《地獄の自画像》 1903年 油彩、カンヴァス 82×66cm

ムンクは「私の絵は、自己告白である」(スケッチブックより。1927-34年)という言葉を遺していますが、生涯にわたり常に「私自身」と向き合った画家だと言えます。展覧会は、彼の自画像からスタートし、人生をゆるやかに年代順に追いながら、主題ごとに構成されています。裸でこちら側を向き、顔の部分と背景に赤みが広がっている《地獄の自画像》に代表される彼の自画像を見ると、当時の状況や不安定な精神状態への想像が膨らみます。また、いわゆる自撮り写真も多数存在します。そのように自分自身を突き詰めて描くことが、後の「内省的」な絵画につながっていくのです。

女性を通して愛と死のテーマに迫る。

《マドンナ》 1895年/1902年 リトグラフ 71×59cm
《マドンナ》 1895年/1902年 リトグラフ 71×59cm

もうひとつの特徴に、“女性”を通して人間の感情や精神性を多く描いたことが挙げられます。彼のトラウマにもなった出来事が、幼い頃に体験した母と姉の死。空ろな目で外を見つめるやせ細った少女を描いた「病める子」シリーズは、姉の死に関連する作品と言われています。ムンクの作品につきまとう暗い死のイメージは、この2人の女性の死が色濃く反映されています。

生涯独身を貫いたムンクですが、愛する人がいなかったわけではありません。数々の女性と恋に落ち、湧き上がる感情や愛情を絵に描き続けました。初恋の相手は人妻。20代前半から約6年間をミリー・タウロヴに捧げました。2人が逢瀬を重ねた美しい風景と甘美な記憶の結びつき、そして愛の苦悩は「夏の夜」を主題とする一連の絵画によく表れています。その後も、ボヘミアングループのミューズだったダグニー・ユールへの愛と嫉妬が「マドンナ」シリーズを生み出したり、逆にムンクに結婚を迫り拒絶されたことで銃の暴発事件を起こしたトゥラ・ラーセンが醸す愛と狂気も主題に登場します。

ムンクは自身の経験をもとに、誰もが持つ恋愛の歓びや苦悩といった普遍的な気持ちを、強烈な色とかたちで表しました。それが、時代を超えて共感を得られるところなのだと思います。

晩年は祖国ノルウェーの風景を描き、80歳で生涯を閉じるまで旺盛に筆を振るったムンク。様々な困難はあったと思いますが、画家としては充実した人生だったと言えるかもしれません。

《疾駆する馬》 1910-12年 油彩、カンヴァス 135.5×110.5cm
《疾駆する馬》 1910-12年 油彩、カンヴァス 135.5×110.5cm
《叫び》 1910年? テンペラ・油彩、厚紙 83.5×66cm
《叫び》 1910年? テンペラ・油彩、厚紙 83.5×66cm
《疾駆する馬》 1910-12年 油彩、カンヴァス 135.5×110.5cm
《叫び》 1910年? テンペラ・油彩、厚紙 83.5×66cm

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