キレッキレな増村演出が冴える、 広告業界モノの秀作。│『巨人と玩具』│山内マリコ「銀幕女優レトロスペクティブ」
司葉子がドライなキャリアウーマンに扮した『その場所に女ありて』(1962年公開。残念ながら未DVD化)など、広告業界を舞台にした映画には秀作が多い。決まって、激務にのみ込まれて疲弊し、自分を見失っていく会社員のギリギリ感が描かれます。広告という得体の知れない近代的な業種、いまに至るまで完治していない異常な「働き方」といった、非常に今日的なテーマを先駆的に描いたのが、この『巨人と玩具』です。
開高健が1957年(昭和32年)に発表し、その翌年、イタリア留学帰りの増村保造がメガホンをとった本作。製菓会社の宣伝部に勤める主人公(川口浩)は、尊敬する上司(高松英郎)がキャラメルのキャンペーンの秘策としてスカウトした島京子(野添ひとみ)のお目付け役をする羽目に。新人モデル京子を大々的に売り出すことに成功し、宇宙をテーマにしたおもちゃを景品にすることも決まり、絶好調。
しかしライバル会社が「乳母車から婚礼までの生活費」というとんでもない景品を打ち出してくるや、一気に形勢逆転されてしまいます。なんとしても売上を伸ばせと会社から追い詰められた上司は、次第に常軌を逸するようになり……。
男たちがキリキリ胃を痛めて働く中、キャンペーンガールに見出された京子は、天真爛漫にスター街道を爆走します。少女マンガさながらの大きな瞳と、キャラメルの広告なのにあえて虫歯をむき出しにした笑顔で大衆の心を掴む京子。育ちの悪い挙動で周囲をふり回し、完全に制御不能、売れたら即モンスター化していく様子が圧巻です。京子を演じる野添ひとみの、超現代的なビジュアルとはすっぱな演技のおかげで、映画全体がモダンに、スタイリッシュに、格上げされていると言っても過言ではありません!
ちなみに、野添ひとみは川口浩のガールフレンド(のちの妻)。それだけに二人が画面に収まったときのお似合い感が半端なく、ストーリーに関係なくときめいてしまいます。
山内マリコ(やまうち・まりこ)●作家。映画化した『ここは退屈迎えに来て』が10月19日公開。新刊『選んだ孤独はよい孤独』。
『クロワッサン』981号より
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