『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』水島治郎さん|本を読んで、会いたくなって。
撮影・森山祐子
民主主義の敵なのか、民衆の味方なのか。
5月7日、フランス大統領選挙の決選投票が行われ、中道・独立系のエマニュエル・マクロン氏が当選した。極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン氏を破っての当選だ。
「これまで政権を担ってきた社会党や共和党は決選投票に進めませんでした」
フランスだけではなく、既成政党は、どこの国でも求心力が低下している、と水島治郎さんは指摘する。その一方で勢力を伸ばしているのがポピュリズム政党だ。
ルペン氏を擁した国民戦線も排外主義的な主張を掲げ、仏国内で大きな影響力を持つポピュリズム政党のひとつ。
ポピュリズム──簡単に言えば「人気とり政治」ということだろうけれど、政治家・政党ならば誰だって多くの有権者から支持を集めたいはず。
では、わざわざポピュリズムと言うのはなぜか。なぜ、世界中で猛威をふるいはじめたのか。そもそもポピュリズムとは何なのか。
そんな初歩的な疑問に明快に答え、ポピュリズムがもつ諸相を、ヨーロッパや南米での実例を踏まえて描き出したのがこの本だ。
水島さんはオランダ政治が専門。「オランダを見れば、今後の世界の動向がわかると言われているほど、政治的、社会的イノベーションが進んでいます。移民や難民の受け入れにも寛容で、高度な福祉国家を発達させてきました」
ところがそのオランダで、2002年、ポピュリズム政党が総選挙の結果、第二党に躍り出た。
「フランス、ドイツ、イギリスでのポピュリズムのブレイクスルーは2010年代ですから、オランダの例を見れば、10年前にその予兆はあったのだと言えます」
こうした国々は、所得格差が小さく、福祉先進国で、民主主義が定着している。そんな国でなぜ?
「ポピュリズムは、民衆が物事を決める最終的な主体であると強調するからです。その民衆の生活を守るために、移民の排除が必要だと訴えるのです」
だとするならば、ポピュリズムは、必ずしも民主主義の敵だとは言い切れないのだろうか。
「確かに民衆主体の意思決定は民主主義の根幹に触れる部分でもありますが、その面ばかりを強調すると、個人の自由の尊重や権力の暴走を抑制するといった民主主義の大切な他の価値がないがしろにされかねません」
“ディナーパーティの泥酔客” のような存在だと言われるポピュリズム。自分たちの社会の中で、どう向き合えばいいのか。これから先を見つめたくなる本だ。
中公新書 820円
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