『介護殺人 追いつめられた家族の告白』毎日新聞大阪社会部取材班 渋江千春さん|本を読んで、会いたくなって。
ある日、突然起こるのが介護問題です。
撮影・森山祐子
長年連れ添った妻を夫が、仕事まで辞めて世話をしていた母を娘が、障がいのある息子を母親が、ある日介護は限界だと感じ、もう終わりにしようと命を奪う。
本書は、2015年12月から2016年6月まで、毎日新聞(大阪本社発行版)に「介護家族」として連載されていたときから大きな反響があった記事を再編集したもの。介護殺人を犯してしまった人に話を聞くという、難しい取材に挑んだ渋江千春さんは、記事を担当した3人の記者のひとり。
「憎くて殺したわけではない、愛する家族を長年介護して疲れ果て、追いつめられた末に殺してしまった人たちです。在宅介護の現実を知りたいと思いました」
取材は加害者の行方を探すことからスタート。しかしたとえ所在がわかったとしても、簡単には話を聞くことはできなかった。何度も足を運び、同じように介護で苦しんでいる人のために、あなたが経験したことを聞かせてほしい、と真摯に何度も頼んだ。
「殺人者といっても、まじめに仕事や家事をして、家族を愛してきた人たちなんです。取材してみても、介護殺人に行き着く人とそうでない人の境目がわかりませんでした。ということは、誰でも介護がきっかけで愛する人を殺してしまう可能性があるということなのかもしれません」
いままで優しかった人が認知症になり暴言を吐くようになる、夜中に何度も起こす、日に何十回とトイレの介助が必要になる……。介護者は寝不足になり、体力的にも限界になり、誰にも助けを求めることなく、鬱々とした気持ちで希望を失っていく。
「介護をひとりで抱え込んでしまっている場合がすごく多いんですよ。とくに男性の場合、いままで自分がやってきた“仕事”と同じように介護もこなせると思って失敗してしまいます」
予測不可能なことが起きるのが介護だ。なぜうまくいかないのか思い悩み自分を追い込んでしまう。
しかし、いま日本は、社会保障費を抑えるために、在宅介護を推進している。
「いちばんの問題は、在宅介護をしている人たちがどのくらい追いつめられているのかを、誰もきちんと把握していないことです。だから同様の事件がこれからも起きる可能性がある。取材してみてはじめて、身近な人の介護が必要になったとき、自分だったらどうしようと私自身も考えました。どんな準備が必要なのかを考えてもらうきっかけとしても読んでもらいたいと思います」
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