取材は加害者の行方を探すことからスタート。しかしたとえ所在がわかったとしても、簡単には話を聞くことはできなかった。何度も足を運び、同じように介護で苦しんでいる人のために、あなたが経験したことを聞かせてほしい、と真摯に何度も頼んだ。
「殺人者といっても、まじめに仕事や家事をして、家族を愛してきた人たちなんです。取材してみても、介護殺人に行き着く人とそうでない人の境目がわかりませんでした。ということは、誰でも介護がきっかけで愛する人を殺してしまう可能性があるということなのかもしれません」
いままで優しかった人が認知症になり暴言を吐くようになる、夜中に何度も起こす、日に何十回とトイレの介助が必要になる……。介護者は寝不足になり、体力的にも限界になり、誰にも助けを求めることなく、鬱々とした気持ちで希望を失っていく。
「介護をひとりで抱え込んでしまっている場合がすごく多いんですよ。とくに男性の場合、いままで自分がやってきた“仕事”と同じように介護もこなせると思って失敗してしまいます」
予測不可能なことが起きるのが介護だ。なぜうまくいかないのか思い悩み自分を追い込んでしまう。