『勝山太夫、ごろうぜよ』車 浮代さん|本を読んで、会いたくなって。
周囲になじめない自分を許したくなる物語。
撮影・武方賢治
浮世絵や江戸料理に造詣が深く、江戸の庶民文化に関する数多くの著書で知られる車浮代さん。
「私が江戸にはまったのは、大阪の美術館で開催された浮世絵の展覧会がきっかけです。浮世絵版画の彫摺の超絶した技巧に惚れ惚れしたのはもちろんですが、館内のロビーで摺師の方が解説付きで実演していらして、『あっしゃあね〜』といった江戸弁が小気味よく耳に響いてきて……。そこから江戸文化に興味を持ちました」
本書は元禄バブル直前の江戸前期に実在した湯女・勝山が、男装の麗人として一世を風靡し、吉原の太夫に上りつめるまでの数奇な人生を描いた時代小説。
「勝山は今の時代ならさしずめタカラヅカの男役トップスターといったところでしょうか。『丹前』や『勝山髷』を考案したり、歌舞伎役者のような装いで町を闊歩しては町娘たちが後を追うなど、当時のファッションリーダー的存在でもありました。私も以前の仕事で宝塚歌劇団を担当したことがあったので、男装の麗人に憧れる女性ファンの気持ちがよくわかります。勝山に親近感を覚えたのは、そのせいかもしれませんね(笑)。
実はこの本を出した出版社のあるビルは、勝山が奉公していた江戸の神田四軒町雉町にあった、湯女風呂『紀伊国屋』のすぐ近く。偶然とはいえ、運命的なものを感じます」
冴えない長身の少女・お勝(のちの勝山)が、呉服屋の勘当息子・銀次から、芸事や立ち居振る舞いを磨かれ変わっていく様は、どこか映画『プリティ・ウーマン』を彷佛とさせる。しかし、ハッピーエンドのシンデレラストーリーとは違い、湯女の姉貴分・市野への思慕と銀次への恋心との葛藤が複雑に入り混じり、果ては紀伊国屋の繁盛を妬んだ吉原遊廓から嫌がらせを受けるなど、読んでいてハラハラさせられる顛末に……。
「勝山が惚れるだけあって、私も優美で包容力のある市野が好きです。艶やかな中に闇を抱えているのも、当時の女性ならでは」
登場人物たちが義理と人情の狭間でこれでもかと揺れ動き、まるで大河ドラマを観ているかのよう。タイトルにある「ごろうぜよ」とは、『ご覧ぜよ、山の手風な伊達な女郎ではござらぬか。くっきりと麗しく、姿は際立ってお見事』と、本作のクライマックスとなる勝山の花魁道中を見聞した井原西鶴の記述によるものだ。
車さんが「錦絵みたいに極彩色な本です」と結んだように、物語の展開がまぶたに浮かんでくるような小説である。
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