『ブッダの〈今を生きる〉瞑想』 訳者・島田啓介さん|本を読んで、会いたくなって。
日常生活にこそ生きるブッダの教え。
撮影・森山祐子
英語で書かれた仏教書を翻訳で読むことが、ブームになりつつある。難解な仏教用語を一旦欧米人にもわかる言葉に訳することで、本来の意味が伝わりやすくなるのだ。なかでもベトナム出身の禅僧ティク・ナット・ハンの本は、やさしくていねいに仏教のエッセンスを伝えてくれ、人気が高い。
「今回の最新作は、僕がこれまでに訳した『ブッダの〈気づき〉の瞑想』『ブッダの〈呼吸〉の瞑想』に続く、3部作の完結編。前の2冊が瞑想法を解説したテキストだとすると、3冊目は人の生き方や、なぜ瞑想をするのか? という根本の部分が書かれています。むしろこちらを最初に読んでいただくと、理解が深まると思います」
と島田啓介さん。冒頭描かれるのはある修行僧のエピソード。僧団から離れてひとり修行する僧に対してブッダは、孤独のなかで修行しても本当の意味でひとりになれ
るとは限らない。コミュニティのなかにあって助け合いながら、自己を保ち、今というときを深く見つめることが大切だと諭す。
「まさに、現代人のために書かれた本だと思います。将来への不安が増す一方で、昔はよかったと過去にとらわれる人もいる。ではすべてを捨てて引きこもればいいのかというと、ブッダはさらに先をいきます。どこにいても誰といても何をしていても、〈今この瞬間〉に意識を向けることで、ほんとうの安らぎがえられる、と」
そのことをティク・ナット・ハンはていねいに説明してくれる。瞑想は長く座ることが大事なのではない。歩いたり、食事をしたり掃除をしたり、日常生活のなかでも瞑想を深めることは可能なのだ。
「〈気づき〉を意味するマインドフルネスという言葉が注目され、IT企業などが研修に取り入れています。もとはティク・ナット・ハンが使い始めた言葉ですが、言葉がひとり歩きしている気もします」
何のためのマインドフルネスか、という視点が欠けているのだ。瞑想の初心者がすべきことを質問されたとき、島田さんが挙げるティク・ナット・ハンの言葉がある。
「家族がいる人は家に帰って、テレビを消してください。そしてパートナーの目をまっすぐ見て、自分たちは今、しあわせなのか、問いかけ話し合ってください」
よりよい自分になるために努力しているうち、周囲を忘れ独善に陥ってしまうのはありがちなこと。
「自分が目指したものはなんだったのか。問い直すきっかけに、この本が役立てばと思います」
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