すぐに始められて効果的。
「インターバル速歩」入門 vol.1
特別な施設や道具、運動経験がなくても大丈夫。日々の歩き方を筋トレにする科学的な方法を教えてもらいました。
「体脂肪がつるべ落としに落ちました」「始めて3、4カ月ですが、姿勢がよくなったと言われます」「正月に増えた体重もすぐ元に戻りますよ」
背筋もシャンと、身のこなしも軽い皆さんは、長野県松本市で今年度に533人が登録しているという、熟年体育大学いきいき健康ひろばコースで「インターバル速歩」に取り組んでいる方々。会員になると、体力測定、健康診断をもとに割り出した個人の目標とする歩行速度を、「熟大メイト」という特別なカロリー計に設定。これを身につけて歩くと、目標速度になると音楽が鳴り、歩いた速度、時間、高度、消費カロリーなどのデータを自動的に記録。月に一度の会合でプリントアウトして成果を見られると同時に、本部にデータを送信し、研究にも役立つという仕組みだ。
きっかけは、健康増進の機運が高まった、1998年の長野オリンピック。すでに約20年、6200人以上の詳細なデータが蓄積され、確実に健康増進につながるという科学的な検証が進められている。
普通に生活しているだけでは、筋肉は自覚なしに年1%落ちていく
「髪が白くなりシワが増えるのと同様に、老人性筋萎縮症といって筋肉も老化により徐々に衰えます。目で見えないため気づきにくいのも問題」
筋力低下により体を動かすのが億劫になると、なるべく体を動かさないようになり、さらに筋力が衰えるという悪循環。いつのまにか日常生活も困難な寝たきりになるリスク。
「体力が落ちるだけではありません。最近発表された学説に、運動不足や肥満により全身に起きる炎症反応が、糖尿病や動脈硬化、認知症やがんを引き起こすというものがあります」
これには、全身の細胞の中にあるミトコンドリアという小器官の減少が関係していることがわかってきた。
「ミトコンドリアも筋力を保持することで数を増やし、活性化できます」
おおもとの慢性炎症を抑えるためにも筋トレが重要視されているのだ。
ウォーキングに早歩きを組み込むだけ。何歳からでも筋力アップ。
インターバル速歩とは、個人の最大体力の70%相当の「速歩き」と、普通の「ゆっくり歩き」を交互に行うウォーキング方法。いつでも、どこでも、誰でも、安価にできる体力向上のための運動プログラムだ。アメリカのスポーツ医学会によると、体力向上には、高強度の運動を1日20分、週3日以上必要というが、
「3分以上はしんどくてやれません。乳酸が出て疲れて、息が切れて」
そこで参考にしたのが、運動部のトレーニングでよくあるダッシュ&スローの方法。「ゆっくり」を間にはさむことで、疲れを回復しながら高強度の運動を続けられるのが鍵。一連のウォーキングの中に、筋力を鍛える無酸素運動と持久力を鍛える有酸素運動の両方を盛り込んでいるので、いつまでも動ける体づくりに最適の設定になっている。
「無理なく取り組めるので、日々の達成感にもつながります。実感できる結果もついてくるので、ますます継続する気になる。実際、5カ月以上続ける割合が95%、現時点で10年以上ずっと継続している人が109人もいるんですよ」
インターバル速歩の仕組み
有酸素運動:速歩時間を長くして持久力を支える「遅筋」を鍛える
無酸素運動:パワーの源の速筋を鍛える筋トレ効果
1日1万歩の普通歩きでは、体力向上は期待できない!?
「実は、松本市での研究は当初、1日1万歩の検証から始めたんです。協力者を毎年100人募集して万歩計を配布して。ところが、まじめに歩いてもらっているのに体力はまるで上がらず、血液検査の結果は多少改善したものの、1万歩歩くには1時間半もかかるのに、その努力に見合うほどの結果とは言えませんでした」
普通に歩く程度の低い負荷では、いくらたくさん歩いても、体力は上がらなかった。
「一方、インターバル速歩を続けると、体力が最大20%向上し、高血圧・高血糖・肥満の人の割合が20%減るという数値が。高い強度で短く歩くほうが、確実に効果があったんです」
ウォーキングのプログラムなので、足腰の弱い人には厳しいのではないかと思いきや、
「慢性膝関節症の症状が改善したとアンケートに回答する人が約50%。悪化したのは4%以下でした」
うつ傾向と判定された人が、インターバル速歩を5カ月続けると、前向きに回復しているという結果も。
「過去よりも確実に自分が進歩していると感じると、未来ももっとうまく生きられると、希望を持って考えられるようになると思うんです」
◎能勢博さん NPO法人熟年体育大学リサーチセンター副理事。著書に『「寝たきり」が嫌ならこのウォーキングに変えなさい』(朝日新聞出版)、『山に登る前に読む本』(講談社)など。体力測定とそれに見合ったおすすめの登山先を教えるアプリを開発、この春に配信をスタートする予定。
『クロワッサン』923号(2016年4月10日号)より