考察『豊臣兄弟!』18話 一国一城の主となった羽柴秀吉(池松壮亮)、新家臣選抜オーディション!
文・ぬえ イラスト・南天 編集・小池貴彦
祝・一国一城の主!
「少年漫画的大河ドラマです。それが何か?」
制作陣にそう言われた気がする『豊臣兄弟!』18話。
家臣選抜オーディションと、それに集う若者達の様子が、少年漫画を思わせるのだ。
貫く姿勢、それを見せてくれるならドンと来いである。
小一郎(仲野太賀)&藤吉郎(池松壮亮)兄弟は羽柴兄弟! にクラスチェンジ。
天正3年(1575年)。羽柴藤吉郎秀吉は琵琶湖のほとり、近江国今浜を長浜(現・滋賀県長浜市)と改め、城を築く。ついに一国一城の主だ。
織田家に仕えて20年。藤吉郎39歳、小一郎は36歳。
にぎやかな長浜城下町を歩く兄弟、アラフォーのおっちゃん同士でわちゃわちゃしている。
小一郎「わずかの間にようこんだけ人が集まったわ」
藤吉郎「年貢や役を免除したからのう。みな儂に感謝して笑っておるわ!」
秀吉が整備した商業と産業の優れた仕組みは江戸時代に受け継がれ、さらに長浜を発展させた。
長年、豊臣秀吉への尊崇篤い地である。
現在も滋賀県長浜市の商店街には「ありがとう秀吉さん」の幟がはためいている。
凄惨な戦は続いています
羽柴兄弟の長浜での活動の前に、番組冒頭にナレーションで述べられた歴史的背景について語っておきたい。
少年漫画らしさを貫いた18話にはそぐわない、血生臭い、一向一揆鎮圧の連続だが、19話の予告にあった藤吉郎と柴田勝家の諍いにも関わってきそうなのだ。
天正3年5月に長篠の戦いで、織田徳川連合軍が武田軍を破り、織田信長(小栗旬)はその勢力を拡大してゆく。
ナレーション「信長に反旗を翻した松永久秀(竹中直人)に取って代わり、大和を任された筒井順慶(永沼伊久也)と摂津という畿内の重要地を支配した荒木村重(トータス松本)」
さらっと松永久秀が信長を裏切ったことが述べられた。
前話で描かれた足利義昭(尾上右近)による、武田信玄(髙嶋政伸)や朝倉義景(鶴見辰吾)、浅井長政(中島歩)ら信長包囲網に、松永久秀も加わっていたのだ。
結果、久秀は多聞山城(たもんやまじょう)を明け渡して信長に降伏した。多聞山城は当時としては斬新で豪奢な作りであり、一説には、信長は先進的なこの城の明け渡しに免じて、久秀の謀反を許したという。
松永久秀、裏切ったがセーフ。
ナレーションで「北伊勢の滝川一益(猪塚健太)」とだけ触れられた長島城での2万人もの一揆衆の焼き討ちをはじめ、一向一揆衆と織田軍の戦いはその後も各地で続く。
ナレーション「越前一向一揆の討伐を終え秀吉が長浜に帰って参りました」
これまたさらりと語られる。
天正3年8月、信長は越前国(現・福井県)でも一向一揆衆に対し、降伏を認めない殲滅戦を展開した。討たれた数万もの一向宗門徒の遺体は山野を埋め尽くしたと伝わり、現在でも福井県の各地に供養塔が残る。
ドラマ内での秀吉のぐったりした様子が、こうした戦を想像させる。
ただ、ぐったりしているのは凄惨な戦場のせいだけではない。
「手柄は皆、他に持っていかれたわ」
この戦いで、柴田勝家(山口馬木也)は信長から越前国75万石と北ノ庄城を与えられ、こちらも一国一城の主となった。
前田利家(大東駿介)と佐々成政(白洲迅)も、それぞれ越前国府中に知行を与えられている。
藤吉郎の「手柄は他に持っていかれた」は、これらを指していると思われる。
重要家臣が続々登場
秀吉が戻って来て、改めて長浜を拠点とした国造りに兄弟で取り掛かる。
竹中半兵衛(菅田将暉)の
「子飼いの家臣の少なさが羽柴殿の弱みでございます」
「若い、有能な者を数多く召し抱えるのです」
このアドバイスに従い、羽柴家臣団を作るべくオーディションを開催する運びとなる。
ここで登場するのが、
藤堂高虎(佳久創)、石田三成(松本怜生)、平野長泰(西山潤)、片桐且元(長友郁真)。
半兵衛の言う、羽柴家の行く末を支える若者たちである。
石田三成はこのとき16歳。
大河『秀吉』(1996年)では、その子役時代を小栗旬が演じた。
同作では、秀吉に石田三成が仕えるきっかけである有名な逸話「三献茶」の場面があった。
鷹狩の帰りで喉が乾いていた秀吉に少年佐吉(三成の幼名)は、一杯目にぬるいお茶をたっぷりと淹れた。
おかわりを求められて二杯目はやや熱いお茶を小ぶりの椀で出した。
茶の美味さに、さらにおかわりを所望した秀吉に、佐吉はもっと熱いお茶を小さな器で供した。
最後のお茶をじっくり味わった秀吉は、佐吉の気働きに感心して召し抱えた。
……というエピソードだが、本作はなし。
この18話で三成の台詞に「私に学問をさせるため、身を粉にして働いて体を壊してしまった」兄への言及がある。石田三成は次兄の石田正澄と兄弟で豊臣秀吉に仕えた。長兄は元亀3年(1572年)に亡くなったことが、三成の嫡男・重家の日記(霊牌日鑑)に記される。
ドラマではこれらの史実を踏まえ、かつ娯楽性の高いオーディションで三成の性格と実務能力を描くことにしたのだろう。
平野長康が大河ドラマに登場したのは過去3回。
『真田丸』(2016年)では近藤芳正が演じていた。
上にペコペコお追従、相手が去れば「ケッ」と悪態をつき、寝転んでスルメくちゃくちゃ嚙んでる閑職のオジサンという印象だった。
長康は天正3年時点で17歳だ。抜け目なさげではあるが、快活な口調。
新たな平野長泰像を本作で形作ってくれるだろう。
温厚そうな片桐且元。
父の片桐直貞は浅井家に仕えた。小谷城落城時に浅井長政が直貞へ宛てた、忠義への謝意を込めた書状が今に残っている。
小谷落城の天正元年(1573年)に且元は18歳だった。父の直貞とともに浅井勢として、織田軍と戦ったのではないだろうか。
浅井家は滅んだが、長政とお市(宮﨑あおい)の娘・茶々と且元は、このずっと先の未来、浅からぬ縁で結ばれる。
歴史上重要な、個性的な面々が揃いワクワクさせてくれるオーディション、開幕。
蜂須賀正勝たちの温かな目
家臣候補生が試されたのは、一ノ関で度胸と観察眼、二ノ関で兵站管理能力、三ノ関で危機対応力か。
一ノ関では蜂須賀正勝(高橋努)一派の小芝居で、藤堂高虎の単細胞と漢気、三成らの冷静さが描かれた。
オーディションを通じて、蜂須賀と宮部継潤(ドンペイ)、おじさんたちの若者を見る目の温かさが良い。
二ノ関の課題「100人が籠城するとしてこの米俵で何日もたせられるか」。
皆の目の前に積まれた米俵は30俵。一俵につき40升(400合)である。
江戸時代初期に松平信興がまとめたとされる戦陣訓『雑兵物語』には、一人の兵につき一日6合の米が水、塩、味噌と一緒に配られたと記録されている。
夜襲の前には多めに支給されたなど、その状況に応じて量は加減があったようだ。
一番解答が多かった12日が正解だとすると、1人あたり日に1升(10合)という計算か。
ただ質問は「何日もたせられるか」であるから、三成の「粥にすれば20日もつ」が、より正鵠を射ている。
高虎の「ふふふ儂の目はごまかせんぞ」と、米俵として炭俵のモックアップを見抜いてドヤる答えは論外としても、小一郎&藤吉郎兄弟はなにが正解かは言わない。
ここでは、皆の実務的思考を審査しているのだから。
3人の未来を暗示…?
次々と篩にかけられる候補者たち。
三ノ関、火事場の危機対応能力は彼らの性根が明らかになる。
候補者が座禅を組まされた本堂に煙が流れ込む。
火事だと驚いて他の皆を逃がす高虎の行動は予想できたが、ギリギリまで煙の中で残った3人を見て、ふと不穏な予感が頭をよぎる。
仕掛けだと見抜き、臨機応変に動けるかの判定だと考えて逃げる長泰。
同じく逃げるが、御本尊の仏像と経典を抱えて守る且元。
動くなと命じられたからと動かない三成。
遠い将来──小一郎&藤吉郎兄弟がいなくなった後の豊臣家における、3人の行動を暗示していないか。
関ケ原合戦で徳川家康率いる東軍についた平野長泰。
大坂の陣の直前まで、淀の方と豊臣秀頼を守ろうとした片桐且元。
器用に立ち回れず、関ケ原合戦で豊臣家に殉じた石田三成。
だが歴史に正解はない。このオーディション課題と同じである。
若者たちの数十年後の運命を思い心が暗くなりかけたが、仏像みたいな三成を抱きかかえて運搬救出する高虎に大笑いした。
脳ミソまで完全筋肉男の藤堂高虎を、羽柴兄弟が微笑んで見守る。
ことに小一郎は、長浜城下町での最初の出会いから、高虎の本質を見抜いていたのである。
“異才の巨人”の前史
「お前は気が短いが、いざという時ひとを助けることができる男じゃ」
小一郎は藤堂高虎に語りかける。
藤堂高虎は、これまでの大河ドラマでは9作に登場している。
そのほとんどが秀吉の晩年あるいは死後の場面であるため年齢的にも、演じるのは『葵徳川三代』(2000年)の田村亮、『どうする家康』(2023年)の網川凛など、落ち着いた雰囲気の俳優が主だった。
本作18話の高虎は20歳。若い、荒くれ者時代が描かれるのは珍しい。
それまでコロコロと主君を変えていた高虎が長年仕えることとなった、羽柴小一郎長秀が主役の大河ドラマならではと言えるだろう。
藤堂高虎は小一郎長秀、のちの豊臣秀長と豊臣秀吉の兄弟が世を去ったのちに、徳川家康(松下洸平)に重く用いられた。
家康が今際の際に高虎の手を握り「そなたと儂は宗派が違う。あの世で会うことができぬかもしれぬのが悲しく、辛い」と語ったという逸話が伝わる。
松下洸平演じる家康で想像すると面白くなってしまうのが困るが、江戸幕府初代将軍・徳川家康にここまで言わせる男、それが藤堂高虎だ。
「この藤堂高虎、身命を賭してお仕え申し上げまする!」
異才の巨人は、羽柴小一郎長秀の下で育てられるのだ。
良き夢を見よう
新たな羽柴家臣団の宴。
ここで、高虎が竹中半兵衛を抱えている姿に『鎌倉殿の13人』(2022年)の弁慶と義経を思い出して、ちょっとウルッとしてしまう。
「よき家臣たちに巡り会えたのう」
「ああ」
満足げな羽柴兄弟に良かったねえと言いたいが、この宴、将来の不安の種も仕込んである気がする。
寧々(浜辺美波)が我が子同然に可愛がる、加藤清正(伊藤絃)と福島正則(松崎優輝)の姿がない。ふたりとも羽柴兄弟の母・なか(坂井真紀)の親戚筋で、この頃には藤吉郎の小姓となっている。
羽柴家臣団発足式のような宴の場面で、長浜仕官組と兄弟の血縁組が最初から分断されていると考えるのは穿ちすぎか。
いや、今は楽しく「皆で良き夢を見よう」。
多くの人が涙と血を流さずに済む、より良き世を思い描いて。
次回予告。
信長が岐阜から安土(現・滋賀県近江八幡市)にお引越し。柴田勝家の激高、藤吉郎の反抗。羽柴藤吉郎秀吉の職場放棄事件。
ああ、やっぱり慶さん(吉岡里帆)には息子がいたんですね。与一郎、なかなか出てこないなと思っていたんですよ……ていうか、与一郎役は『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(2025年)で蔦屋重三郎の子ども時代を演じた、高木波瑠くん!?
19話が楽しみですね。
*******************
NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』
【作】八津弘幸
【音楽】木村秀彬
【語り】安藤サクラ
【出演】仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、菅田将暉、坂井真紀、宮澤エマ、大東駿介、松下洸平、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗 旬 ほか
【時代考証】黒田基樹、柴 裕之
【制作統括】松川博敬、堀内裕介
【プロデューサー】高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友 茜(広報)
【演出】渡邊良雄、渡辺哲也、田中 正
※このレビューは、ドラマの設定をもとに記述しています。
*******************
主な参考文献:
ルイス・フロイス(著)/松田毅一・川崎桃太(翻訳)『完訳フロイス日本史・織田信長編 合本』中公文庫,1999年
谷口克弘(著)『織田信長合戦全録──桶狭間から本能寺まで』中公新書,2002年.
太田牛一(著)/中川太古(現代語訳・注)『現代語訳 信長公記』新人物文庫, 2013年.
和田裕弘(著)『織田信長の家臣団──派閥と人間関係』中公新書,2017年.
永原慶二(著)/本郷和人(解説)『戦国時代』講談社学術文庫, 2019年.
黒田基樹『羽柴秀吉とその一族――秀吉の出自から秀長の家族まで』角川選書, 2025年.
柴裕之『羽柴秀長――秀吉の天下を支えた弟』角川選書, 2025年.
黒田基樹『羽柴秀長の生涯――秀吉を支えた補佐役の実像』平凡社新書, 2025年.
黒田基樹・柴裕之〔編〕『羽柴秀長文書集』東京堂出版, 2025年.
桑田忠親(著)『豊臣秀吉研究 上・下』角川選書.2025年
菊池浩之(著)『増補新版 豊臣家臣団の系図』角川新書.2025年