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デザイナー小泉誠さんの“使い勝手を支える”デザインの秘密

抜群に使いやすく、見た目も美しい道具の数々を生み出してきたデザイナーの小泉誠さん。デザインやもの作りに対する思いを語ってもらった。

撮影・青木和義 文・嶌 陽子 構成・堀越和幸

小泉 誠(こいずみ・まこと)さん 家具デザイナー。1990年、Koizumi Studio設立、日本各地のもの作りの現場との協働を続けている。『こいずみ道具店』<a href="https://koizumidouguten.com" target="_blank">https://koizumidouguten.com</a>
小泉 誠(こいずみ・まこと)さん 家具デザイナー。1990年、Koizumi Studio設立、日本各地のもの作りの現場との協働を続けている。『こいずみ道具店』https://koizumidouguten.com

“僕にとっては何を作るかより、まず誰と作るかが大事です”

“家具とは暮らしの道具”という考えのもと、台所道具から建築まで、幅広くデザインを手がけている小泉誠さん。もの作りのプロセスや考え方について聞くと、意外な答えが返ってきた。

「僕にとっては何を作るかより、まず誰と作るかが大事です。デザイナーって、一人ではものを作れないんですよね。作り手がいないとできない。だから『こんな道具がほしい』ということより、作り手の得意な技術や意欲などを考えるところからスタートします。作り手のモチベーションが低いと製品にも影響するし、もの作りも長続きしない。ものを作るというより、作り手の“ものを作りたい気持ち”を作るという意識でいつも取り組んでいるんです」

そうやって全国各地の作り手たちと丁寧にコミュニケーションを取りながら、これまでに約1000点の道具を生み出してきた。そのうち、現在も購入できるものは800点ほど。「廃番になったものが少ないことは、ちょっと自慢できる点かな」と話す。大事にしているのは機能的であること、タフであること、そして情緒的であることだ。

「機能はちょうど“十分”でなければいけません。七分でも八分でもだめですし、十二分でもだめ。多機能すぎるものって、結局使わなくなるんですよ。またタフというのは、単に頑丈であればいいということではなく、素材ごとの性質なりに長持ちできるかということです。情緒的であること、つまり使い心地のよさや見た目の美しさ、愛着を持てるか、さらには使っていない時の佇まいもといったこともとても大事。そうしたことを常に意識しています」

東京・国立市にある『こいずみ道具店』は、小泉さんのデザインを伝える場。道具を実際に手に取ることができ、購入も可能
東京・国立市にある『こいずみ道具店』は、小泉さんのデザインを伝える場。道具を実際に手に取ることができ、購入も可能

“試行錯誤を重ねていけば、ものの「使いやすい形」は必然的に見えてきます”

新しい道具を作る際は、まず同じジャンルの市販品を集めてきて徹底的にリサーチ。図面を引くのはもちろん、「手でよく考えること」も大事にしているため、自ら模型を作ることも多い。さらには試作品をスタッフと共に試してみて、使い勝手をとことん検討する。

「たとえばサーバースプーンだったら、持ちやすい長さや重さであるか、料理をすくいやすいか、使っている時の所作が美しいかなど。そんなふうに試行錯誤を重ねていくと、使いやすい形というのが必然的に見えてくるんですよ」

そうやって生み出した道具は、どれもがシンプルな佇まい。自ずとそうなるのだと小泉さんは言う。

サーバースプーンをデザインする際に作った模型や試作品の数々。実際に手に持ったり使ってみたりしながら、最終的には10分の1ミリ単位で厚みを調整していく
サーバースプーンをデザインする際に作った模型や試作品の数々。実際に手に持ったり使ってみたりしながら、最終的には10分の1ミリ単位で厚みを調整していく

“「シンプル」とは引き算ではなく、むしろ足し算だと思います”

「シンプルって、削ぎ落としていく引き算のイメージがあるかもしれませんが、作り手からするとむしろ足し算という感覚です。必要なものだけを積み重ねていった結果、『ここだ』というラインにたどり着くんです」

過不足のない、ちょうどよい道具を生み出すうえで欠かせないのが、高い技術を持つ作り手の心意気。時には作り手のこだわりがすごすぎて、小泉さんがたじろぐこともあるほどだ。

パンの耳までおいしく焼ける〈家事問屋〉のホットパン。ガス・IH両方で使用可能。上下を取り外しフライパンとしても使える。約W16×D35×H4.5cm 1万5400円(下村企販 <a href="https://kajidonya.com/" target="_blank">https://kajidonya.com/</a>)
パンの耳までおいしく焼ける〈家事問屋〉のホットパン。ガス・IH両方で使用可能。上下を取り外しフライパンとしても使える。約W16×D35×H4.5cm 1万5400円(下村企販 https://kajidonya.com/

“みんなで問題点を出し合って、日本一おいしいホットパンを作りました”

「ホットパンを作った時がそうでした。日本一おいしいホットサンドが作れるホットパンを作ろうと、作り手も含めてみんなでいろんな問題点を話し合いました。途中から作り手が、自分たちが得意とするワイヤー加工を取り入れたいと言い出してね。正直、そこまでしなくてもいいんじゃない?って思った(笑)。価格も当初考えていたものの倍以上になってしまい、焦りました」

ところが販売したところ評判が広まり、一時は生産が追いつかないほどのベストセラー製品に。小泉さん自身も「これで作るとおいしいので食べすぎてしまい、一時期太ったくらい」というほど、確実に人々の心を捉えたのだ。

小泉さんの事務所の一角には台所道具から椅子やテーブルまで、さまざまな模型が並ぶ。常に20件ほどのデザインを並行して進行中
小泉さんの事務所の一角には台所道具から椅子やテーブルまで、さまざまな模型が並ぶ。常に20件ほどのデザインを並行して進行中

“作り手には、使ってくれる人も仲間。もの作りの分業を担ってくれている”

「作り手の思いやプライドに僕らのデザインが合わさると、こういうものができるんだとあらためて実感しました」

デザイナーや作り手だけでなく、作り手同士や作り手と店を結びつける問屋、道具のよさを伝える販売店など、現代のもの作りはさまざまな人の分業によって成り立っている、と小泉さんは言う。そして私たち使い手もまた、作り手にとっては仲間なのだとも。

「使い手が喜んで使ってくれることが、もの作りを持続させ、次のものを生み出す力にもなる。使う人一人ひとりが、自分たちももの作りの分業を担う一員なんだと思ってくれたらうれしいですね」

こいずみ道具店の奥にある小さな工房。模型を作ったりしながら「手で考えて、答えを見つけていきます。(デザイナーの)柳宗理さんも自ら作る人だった。その影響を受けています」
こいずみ道具店の奥にある小さな工房。模型を作ったりしながら「手で考えて、答えを見つけていきます。(デザイナーの)柳宗理さんも自ら作る人だった。その影響を受けています」
デザイナー小泉誠さんの“使い勝手を支える”デザインの秘密
のどかな国立の街角に立つ『こいずみ道具店』。築50年ほどの建物をリノベーションして造った。1階は主に食器や台所道具が並ぶ店舗、その奥に工房。2階は事務所スペース、さらにその上はロフト。事務所は台所道具などを試すことができるキッチンも備えている。 東京都国立市富士見台2-2-31  TEL:042-574-1464(来店は予約制。電話にて問い合わせのこと)

機能美が際立つ、小泉さんデザインの道具

家事問屋のハマグリお玉──鍋底や鍋肌に沿うようにと考えられたハマグリのような形が特徴。驚くほど汁や具をすくいやすく、器に注ぎやすい。左利きでも使用できる。小・7.9×20.3×6cm 2,310円、中・8.8×22.8×6.5cm 2,530円、大・9.7×25.2×7cm 2,860円(下村企販 <a href="https://kajidonya.com/" target="_blank">https://kajidonya.com/</a>)
家事問屋のハマグリお玉──鍋底や鍋肌に沿うようにと考えられたハマグリのような形が特徴。驚くほど汁や具をすくいやすく、器に注ぎやすい。左利きでも使用できる。小・7.9×20.3×6cm 2,310円、中・8.8×22.8×6.5cm 2,530円、大・9.7×25.2×7cm 2,860円(下村企販 https://kajidonya.com/
ambaiの玉子焼き──蓄熱性の高い鉄製でふっくらおいしく焼けると同時に、表面に凹凸を施しているのでこびりつきなし。まさにいいとこ取りの玉子焼き器。角小(卵1個用)9.8×31×7.2cm 6,600円、角(卵2〜3個用)14.8×35×7.3cm 7,480円(フォームレディ <a href="https://formlady.co.jp/" target="_blank">https://formlady.co.jp/</a>)
ambaiの玉子焼き──蓄熱性の高い鉄製でふっくらおいしく焼けると同時に、表面に凹凸を施しているのでこびりつきなし。まさにいいとこ取りの玉子焼き器。角小(卵1個用)9.8×31×7.2cm 6,600円、角(卵2〜3個用)14.8×35×7.3cm 7,480円(フォームレディ https://formlady.co.jp/
kaicoのピッチャー&グラス──今や日本では希少となった琺瑯メーカーの技術を生かしたシリーズ。水切れのよさにこだわったピッチャーも、やさしい口当たりのグラスも、琺瑯独特の質感が美しい。ピッチャー W15.5×D11×H13cm 8,800円、グラス 直径8×H6.5cm 各7,150円(フォームレディ)
kaicoのピッチャー&グラス──今や日本では希少となった琺瑯メーカーの技術を生かしたシリーズ。水切れのよさにこだわったピッチャーも、やさしい口当たりのグラスも、琺瑯独特の質感が美しい。ピッチャー W15.5×D11×H13cm 8,800円、グラス 直径8×H6.5cm 各7,150円(フォームレディ)
日常茶飯器の急須──三重県四日市市の伝統的な焼き物「萬古焼」を、現代の生活に合うような使い勝手のよいデザインに。注ぎやすく、湯切れのいい形が魅力。茶こしも陶器でできているため、お茶本来の風味を楽しめる。17.5×14.5×8cm 6,6 00円(スズ木 <a href="https://n-sahanki.com/" target="_blank">https://n-sahanki.com/</a>)
日常茶飯器の急須──三重県四日市市の伝統的な焼き物「萬古焼」を、現代の生活に合うような使い勝手のよいデザインに。注ぎやすく、湯切れのいい形が魅力。茶こしも陶器でできているため、お茶本来の風味を楽しめる。17.5×14.5×8cm 6,6 00円(スズ木 https://n-sahanki.com/
家事問屋のとりわけトング──「豆腐もつかめるトング」を目指して作った一品。ぴったりと合わさる細い先端は菜箸としても使える。「職人のすごい技術のおかげでしなり具合が柔らかく、とても使いやすいです」と小泉さん。右・全長25cm 1,980円、左・全長15cm 1,980円(下村企販)
家事問屋のとりわけトング──「豆腐もつかめるトング」を目指して作った一品。ぴったりと合わさる細い先端は菜箸としても使える。「職人のすごい技術のおかげでしなり具合が柔らかく、とても使いやすいです」と小泉さん。右・全長25cm 1,980円、左・全長15cm 1,980円(下村企販)
tetuの鉄瓶──底が広いため火が当たりやすい、南部鉄の鉄瓶。「注ぎ口の下に切り込みを入れ、湯切れをよくしています」。蓋を鉄瓶の縁にかけて乾かせるのも便利。W20.3×D16.5×H15cm、満水容量約1L、約2kg 4万4000円(池永鉄工 <a href="https://ikenaga-iw.jp/" target="_blank">https://ikenaga-iw.jp/</a>)
tetuの鉄瓶──底が広いため火が当たりやすい、南部鉄の鉄瓶。「注ぎ口の下に切り込みを入れ、湯切れをよくしています」。蓋を鉄瓶の縁にかけて乾かせるのも便利。W20.3×D16.5×H15cm、満水容量約1L、約2kg 4万4000円(池永鉄工 https://ikenaga-iw.jp/
SITAKUのレモン絞り ほか──「道具として使える器」のコンセプトでデザインした有田焼のシリーズ。スタッキング可能(各直径10cm)。レモン絞り5.7cm、すり鉢H3.5cm、お玉立てH3.8cm、おろし器(しょうが)H2.8cm 各1,870円、蓋H1.2cm 660円(キハラ <a href="https://e-kihara.co.jp/" target="_blank">https://e-kihara.co.jp/</a>)
SITAKUのレモン絞り ほか──「道具として使える器」のコンセプトでデザインした有田焼のシリーズ。スタッキング可能(各直径10cm)。レモン絞り5.7cm、すり鉢H3.5cm、お玉立てH3.8cm、おろし器(しょうが)H2.8cm 各1,870円、蓋H1.2cm 660円(キハラ https://e-kihara.co.jp/
ambaiの鉄鍋敷──美しい佇まいの南部鉄鍋敷。背の高いひだの3点で支えるつくりで、裏表に関係なく置くことができ、しっかり放熱もできる。「道具は使わずに置いてある時でも情緒的な佇まいになるように意識しながらデザインをしています」。直径16×H1.3cm 6,050円(フォームレディ)
ambaiの鉄鍋敷──美しい佇まいの南部鉄鍋敷。背の高いひだの3点で支えるつくりで、裏表に関係なく置くことができ、しっかり放熱もできる。「道具は使わずに置いてある時でも情緒的な佇まいになるように意識しながらデザインをしています」。直径16×H1.3cm 6,050円(フォームレディ)
ambaiのパン切り板──あちこちに飛び散らかりがちなパン屑を溝がしっかり受け止めてくれる優れもの。横の余白は「チーズなど、他のものを切ったり、ジャムを置いたりするために」と考えられたもの。「食卓で使ってほしいです」。22×30×2cm 5,500円(フォームレディ)
ambaiのパン切り板──あちこちに飛び散らかりがちなパン屑を溝がしっかり受け止めてくれる優れもの。横の余白は「チーズなど、他のものを切ったり、ジャムを置いたりするために」と考えられたもの。「食卓で使ってほしいです」。22×30×2cm 5,500円(フォームレディ)
家事問屋のハマグリお玉──鍋底や鍋肌に沿うようにと考えられたハマグリのような形が特徴。驚くほど汁や具をすくいやすく、器に注ぎやすい。左利きでも使用できる。小・7.9×20.3×6cm 2,310円、中・8.8×22.8×6.5cm 2,530円、大・9.7×25.2×7cm 2,860円(下村企販 <a href="https://kajidonya.com/" target="_blank">https://kajidonya.com/</a>)
ambaiの玉子焼き──蓄熱性の高い鉄製でふっくらおいしく焼けると同時に、表面に凹凸を施しているのでこびりつきなし。まさにいいとこ取りの玉子焼き器。角小(卵1個用)9.8×31×7.2cm 6,600円、角(卵2〜3個用)14.8×35×7.3cm 7,480円(フォームレディ <a href="https://formlady.co.jp/" target="_blank">https://formlady.co.jp/</a>)
kaicoのピッチャー&グラス──今や日本では希少となった琺瑯メーカーの技術を生かしたシリーズ。水切れのよさにこだわったピッチャーも、やさしい口当たりのグラスも、琺瑯独特の質感が美しい。ピッチャー W15.5×D11×H13cm 8,800円、グラス 直径8×H6.5cm 各7,150円(フォームレディ)
日常茶飯器の急須──三重県四日市市の伝統的な焼き物「萬古焼」を、現代の生活に合うような使い勝手のよいデザインに。注ぎやすく、湯切れのいい形が魅力。茶こしも陶器でできているため、お茶本来の風味を楽しめる。17.5×14.5×8cm 6,6 00円(スズ木 <a href="https://n-sahanki.com/" target="_blank">https://n-sahanki.com/</a>)
家事問屋のとりわけトング──「豆腐もつかめるトング」を目指して作った一品。ぴったりと合わさる細い先端は菜箸としても使える。「職人のすごい技術のおかげでしなり具合が柔らかく、とても使いやすいです」と小泉さん。右・全長25cm 1,980円、左・全長15cm 1,980円(下村企販)
tetuの鉄瓶──底が広いため火が当たりやすい、南部鉄の鉄瓶。「注ぎ口の下に切り込みを入れ、湯切れをよくしています」。蓋を鉄瓶の縁にかけて乾かせるのも便利。W20.3×D16.5×H15cm、満水容量約1L、約2kg 4万4000円(池永鉄工 <a href="https://ikenaga-iw.jp/" target="_blank">https://ikenaga-iw.jp/</a>)
SITAKUのレモン絞り ほか──「道具として使える器」のコンセプトでデザインした有田焼のシリーズ。スタッキング可能(各直径10cm)。レモン絞り5.7cm、すり鉢H3.5cm、お玉立てH3.8cm、おろし器(しょうが)H2.8cm 各1,870円、蓋H1.2cm 660円(キハラ <a href="https://e-kihara.co.jp/" target="_blank">https://e-kihara.co.jp/</a>)
ambaiの鉄鍋敷──美しい佇まいの南部鉄鍋敷。背の高いひだの3点で支えるつくりで、裏表に関係なく置くことができ、しっかり放熱もできる。「道具は使わずに置いてある時でも情緒的な佇まいになるように意識しながらデザインをしています」。直径16×H1.3cm 6,050円(フォームレディ)
ambaiのパン切り板──あちこちに飛び散らかりがちなパン屑を溝がしっかり受け止めてくれる優れもの。横の余白は「チーズなど、他のものを切ったり、ジャムを置いたりするために」と考えられたもの。「食卓で使ってほしいです」。22×30×2cm 5,500円(フォームレディ)

『クロワッサン』1151号より

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