プロの台所の使い方に学ぶ、動線を考え抜いた収納の実例
撮影・青木和義 構成&文・堀越和幸
整理収納コンサルタントの本多さおりさんの家にお邪魔して、使いやすい台所の実例を見ていこう。
台所の動線や収納を考えるにあたってまず考えるべきは、“歩数”と“手数”です、と本多さんは言う。
「台所は家の中でも一番物を出し入れする機会が多い場所なので、できるだけすぐに取れるということを心がけています。例えば、引き出しから鍋を取り出すのに3〜4歩かかるとして、一見たいしたことはありませんが、行って戻ることを考えるとその倍を歩くことになる。そういう小さな無駄を解消すると、毎日が意外に楽になるんです」
本多さんからすれば、それがストレスだと認識できるのはまだいいほうで、多くは無自覚のまま繰り返されるか、あるいは多少のストレスを感じつつも見て見ぬ振りをしてしまう。
「いつもの台所仕事を一度振り返ってみて、実は自分はどんなところに面倒臭さを感じているか、こまかい動きまでをチェックしてみるといいです。面倒臭いには必ず理由がありますので」
その“面倒臭い”を突き止めることこそが、改善に向けた第一歩となる。
「収納の相談でよく私が話すのは、片づかないのは人のせいではなく仕組みのせいということ。台所も同様で、動線は仕組み次第でどうにもなります」
本多家の8つの実例を参考に、さっそくそのエッセンスを取り入れよう。
アイデア1 いつものコップは、テーブルから最短距離の場所に
壁付けキッチンの近くにダイニングテーブルがある本多さん宅では、コップやカトラリーをテーブルから最も近いシンク下の引き出しに収めている。
「理由は、ほとんど歩かずに済むから。そして私だけでなく、テーブルの家族も自分でもすぐ取れるからです」
テーブルで盛りつけなどを行わない皿類は、むしろこの引き出しではない。
「その道具がどう使われるかを想像すると、定位置は自ずと決まります」
アイデア2 使う頻度によって1軍と2軍に分け、しまう場所を替える
使用頻度に応じて台所の道具を1軍と2軍に分けて配置するのも、本多さん流のアイデアだ。
「よく使う調理器具はキッチン台の上にオープン収納で、頻度の落ちるものは引き出しに入れています」
さらにその引き出しも、例えば調味料類などは手前が1軍、奥が2軍というように分けている。
「すると引き出しをいちいち全開にしなくてもいいので、とても効率的です」
アイデア3 トースターなどの家電を1カ所に集結させるには
調理道具や小物に比べて、台所で使う電化製品だけは置く場所が限られるのが悩みだった、と本多さん。
「そんな時に可動式の棚を購入して一番背の高い道具に合わせて設置し、そこにまとめることにしました」
上にある程度のスペースを空ければ、棚から下ろさずその位置で使える。
「家電は何年かすると買い替えたり、新規導入したりもするものなので、そんな時にも柔軟に対応ができます」
アイデア4 タテか? ヨコか? 一気に片づけるなら、ヨコ収納が断然便利
本多さんはお皿やボウルなどの器の類を、引き出しの縦列を使ってしまわずに、横列を専用のスペースと決めて使っている。どうしてか?
「しまう時は横の段全て開けっぱなしにして、そこへポスティングするように入れられるからです。便利です!」
縦に使うと手数もかかってしまう。
「上の引き出しを閉めないと下が使えない、という局面が出てきますよね。これは洋服の収納にも応用できます」
アイデア5 物の動き方を見極めると、最高の動線ができる
本多さん宅ではパントリー(食品の保管庫)がキッチン台の対面にあり、かつてはその一部が布巾の定位置だった。
「洗濯機で洗ってキッチン台で畳み、パントリー側にしまっていました」
が、ある日キッチン台手前の引き出しに目をやり、気づいてしまった。
「畳み終わったらここに入れれば、一歩も歩かなくてすむではないか!と」
以来、布巾の動線はとてもストレスフリー。物の動き方に注意を向けよう。
アイデア6 利き手の自然な動きに寄り添うフライパンの置き方
無駄に歩くのを減らして、手数を少なくするには、フライパンの定位置は自ずとIHの下の深い引き出しがベストとなる。そして──、
「私は右利きなのでできればその動きに無理がなく、かつ最も移動距離が短くしまえる引き出しを選んでいます」
写真をよく見るとわかるが、鍋の柄は左向きに揃えて置いている。
「そうしておくと、パッとワンアクションで取り出せるんです」
アイデア7 夫と二人で台所を片づける時には、こんな注意を
台所仕事を家族と一緒にする時にはどんな注意が必要か?
「人の背後を頻繁に通るなど、動線が重なり合うのは鬱陶しいですよね」
本多さんの家ではキッチン台の下に食洗機が設置されている。
「それを境に片側を調理器具、片側を食器というふうに引き出しを分けているので、どちらかを分担して片づければ動きは重なりません。収納をまとめることで、作業も整理できるんです」
アイデア8 収納ケースはまとめて使うと、メリットがたくさん
どんな家にも必ず一つはありそうな収納ケース。本多さんの提案は複数をまとめて使いましょう、というもの。
「同じ素材、同じシリーズをまとめて使うとそれだけで見た目の秩序が生まれます。それぞれのケースに1、2、3、4と番号を振っておくと、入れたものを忘れにくく、整理に役立ちます」
バラバラで使う人は案外多いが、
「それだと効果は薄いです。まとめることで動線もシンプルになりますよ」
『クロワッサン』1151号より
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