「動線」を意識して物を整理する、ストレスフリーな台所の考え方
撮影・青木和義 イラストレーション・山口正児 構成&文・堀越和幸
台所で働く人はどんな動きをするか、を調べてみると……
使いやすい台所とはどんな台所か? そのことを探るために大手住宅設備メーカーの「LIXIL」は台所で実際に働くユーザーの動きを調査した。
「台所のタイプや広さ、収納の造りなどは各家庭によってまちまちですが、一般的な台所仕事で人はどんな動き方をしていて、そこにはどんな潜在的なニーズが見出せるか、という研究を行いました」
と語るのは、LIXILリビング事業部リビング商品部の森川裕美さんだ。調査は複数台のカメラをラボに設置し、被験者にはいつも家でするように調理を行ってもらい観察した。そうして、5年間をかけ、のべ100回に達する調査でわかったこととは?
「調理行動の動線のほとんどはシンクやコンロに対して30cmくらいの位置の横移動であることがわかりました(上イラスト)。その際、開けた引き出しを避ける縦動線はむしろ非効率的となりますので、台所の収納を考える時にはそうした無駄な動きが省けるよう工夫するといいということになります」
なるほど、道具を取り出す時、引き出しを大きく開けずに物が取り出せることができれば、横移動だけで完結できるのでラクそう。
「調理中の何げない動作や行動を分析して、潜在的ニーズを発掘できれば、台所はもっと使いやすくなるはずです」
複雑な動線を単純化させるのが、いつも使う道具の再配置
横の動線で台所を効率よく使うためには、“道具の指定席”を作ることも大切、と森川さんは言う。
「使いたいものが使いたいところにある、ということを意識して配置すると台所は俄然使い勝手がよくなります」
例えば、コンロ下の収納にはコンロで使う鍋やフライパン、フライ返しなど(上写真)、シンクの下にはボウルやバットやざるなど(下写真)。
「お客さまに収納についてお話をする時は、何を?どこに?どうしまうか? という3つを大切にするといいです、ということをお伝えしています」
多くの人がしている、台所の引き出しを半開きにする理由
調理する人の動きは、ほとんどが横移動──。そのほかにも先の調査ではもう一つのことが判明した。それは、
「調理をする時には台所の引き出しを全開にして使う機会はごく限られていて、たいがいはその都度少しだけ開けて、必要なものだけを取り出し使う作業を繰り返しているということでした」
言われてみると確かに思い当たらないだろうか。台所の引き出しを全開にしたままだと、それだけで私たちの横動線は妨げられる。
「半開きならそんなに邪魔にならないし、開いたままでも移動は可能。実際にそうしているユーザーもいました」
「LIXIL」から出されているシステムキッチン〈リシェル〉では、この潜在的ニーズを踏まえて、扉が斜めに開く“らくパッと収納”を開発した(上写真)。
「少しの開きでも手前のポケットから使用頻度の高い包丁などが取り出せ、さらに開けばシェルフ、ストッカーを一度に引き出せるという立体収納です」
使う頻度によって場所を振り分ける
すべての物をどこに収納するかを決める時は、それがどのくらいの頻度で使用されるかということを今一度点検してみるといい。例えば「LIXIL」が提案する目安は下表のとおりだ。
「毎日使う、週に数回、月に数回、年に数回……というように分けて、道具を分類します。そして、毎日や週に数回使うものは“普段使いゾーン”の収納スペースに仕舞いましょう」
“普段使いゾーン”とはしゃがんだり背伸びをしなくとも立ったまま物が取り出せる場所のこと(下イラスト)。
「それより頻度の下がるものは、吊り戸棚やけこみ(キッチンの最下部にある収納)にしまいます。その際、重さのある土鍋やカセットコンロなどは、けこみのほうが向いています」
〈収納するものの見極め方〉
使用頻度を、毎日、週、月、年に分けて考えて、毎日と週で使うものは“普段使いゾーン”へ、そうでないものは吊り戸棚や足元のけこみに収納すると、台所の作業効率は上がる。
『クロワッサン』1151号より
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