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【白央篤司が聞く「自分でお茶を淹れて、飲む」vol.7】白土暁子(酒販店勤務)茎ほうじ茶には麦焼酎、和紅茶ならフルーティな芋焼酎、お茶割りの組み合わせを楽しむ

ペットボトルは便利だけど、「自分でお茶を淹れて、飲む」行為には、かけがえのない良さがあるように思えてならない……。「生活にお茶は欠かせない」人たちは、どんな風にお茶と付き合っているのだろうか? 『台所をひらく』などの著書で知られるフードライターでコラムニストの白央篤司さんが「お茶」をテーマにインタビューする連載第7回は白土暁子さんのお話です。

取材/撮影/文・白央篤司 編集・アライユキコ

お茶割りってとても人気があるんです

白土暁子(しらと・あきこ)「IMADEYA」仕入れ担当。1979年茨城県生まれ。親の転勤にともない関西と福岡、そして千葉で十代を過ごす。家具の販売会社に勤めたのち、30歳から「IMADEYA」に勤務、現在に至る。仕入れ担当として、日本および世界の酒造メーカーを訪ねる日々を過ごしている
白土暁子(しらと・あきこ)「IMADEYA」仕入れ担当。1979年茨城県生まれ。親の転勤にともない関西と福岡、そして千葉で十代を過ごす。家具の販売会社に勤めたのち、30歳から「IMADEYA」に勤務、現在に至る。仕入れ担当として、日本および世界の酒造メーカーを訪ねる日々を過ごしている

今回お茶の話をしてくれる白土暁子さんは酒販店に勤めて、仕入れを担当している方だ。「お酒のプロが、お茶の紹介?」なんて意外に思うかもだが、理由を聞いたらすぐに納得するはず。

「いま、世間ではお茶割りってとても人気があるんです。うちの営業部から頼まれたんですよ、飲食店さんが手軽に淹れられる良質なお茶を探して仕入れてほしい、と。見つけたものが自分でも気に入って、普段も飲んでいるわけです」

お茶の茎だけを焙煎して作られる、茎ほうじ茶
お茶の茎だけを焙煎して作られる、茎ほうじ茶

そう言いながら出してくれたのは、冷たい茎ほうじ茶だった。香ばしい風味が夏にぴったり。飲み終えると舌にほんのり甘みが感じられて、なんとも快かった。

「鹿児島の、すすむ屋茶店さんの『くきほうじ茶』です。ほうじ茶よりも香ばしさがひかえめで、甘みもあって飲みやすいところが好きで。私、お茶ってがぶがぶ飲みたいほうだから」

白土さんの夏の水分補給源として活躍中。麦茶とはまた違う香ばしさに、胸がスッとする
白土さんの夏の水分補給源として活躍中。麦茶とはまた違う香ばしさに、胸がスッとする

白土さんが淹れるところを見せてもらった。茶葉の量をきちんと計量器ではかり、銅製のやかんで沸かしたお湯を急須に入れて、たっぷりの氷を入れた茶器で冷やせば、さあ出来あがり。

「茶葉の量は計量してますけど、あとは全然適当ですよ(笑)。仕事柄お酒を飲むことも多いのですが、飲んで帰ってきて、家でお茶を飲んでシメる日もあって。いろいろ試した中、一番沁みる味わいだったのが、この『くきほうじ茶』でした」

自分と相性のいいお茶というのは、暮らしに区切りを与えてくれて、生活のいい伴走者になってくれる。ちょっと煮詰まったとき、くたびれたとき、そしてホッとしたいときなど、お茶を淹れて飲むのは気分転換になっていいものだ。そう、転換。転換させることによって気の淀みもちょっと消える。

白土さんは一日の終わりにも、お茶を飲むんだな。ちなみに茎ほうじ茶はカフェインのマイルドなお茶ではあるが、このあたりは体質もあるので、苦手な方はお気をつけて。

白土さん愛用のやかんは中国製のもの
白土さん愛用のやかんは中国製のもの

さて、鹿児島のすすむ屋茶店さんとはどんな出会いだったのだろう。焼酎の仕入れにでも行った際に見つけたのだろうか?

「いえ、銀座のデパートの催事に出店されていて。そのとき試飲しておいしかったんです。小売りもされているけど問屋さんですから、仕入れの相談をすると様々な種類のお茶の、いろんなランクのサンプルを出してくれるんですよ。飲食店さんが使いやすいよう、水出しできるものとかも」

そんなやりとりから、白土さんも自然とお茶に対する知識を増やしていった、というわけなのだった。

タンニンがやさしい和紅茶

「もうひとつ、すすむ屋茶店さんで好きになったお茶を淹れましょうか」と白土さん。ぜひにと頼めば、手に取ったパッケージには「薩摩紅茶」の文字があった。薩摩、つまりは鹿児島県産の紅茶である。

「和紅茶も私はタンニンがやさしいと感じます。だからまた、がぶがぶ飲める(笑)。水出しにするとさらにやさしい感じになるんですよ」

すすむ屋茶店さんのホームページ(情報はこちら)によれば、明治時代から鹿児島では紅茶栽培が盛んだったそう。

竹の持ち手の感触もあたたかい、お気に入りの急須
竹の持ち手の感触もあたたかい、お気に入りの急須

淹れるのは大ぶりの急須で。和紅茶だからか、それがまたしっくりくる。

「高桑英隆さんという作家さんの急須で、20年前ぐらいに富山県で買いました。当時は飛騨高山で働いていたんですが、アクセスのよい富山に遊びに行くことが多くて。人生ではじめて訪ねた作家さんの窯でしたが、シンプルな可愛さに魅せられました。当時からがぶがぶ派なので、大きめのを選んで(笑)」

白土さんのデイリー茶のひとつ、すすむ屋茶店の「薩摩紅茶」
白土さんのデイリー茶のひとつ、すすむ屋茶店の「薩摩紅茶」

味わいと香りはしっかり、でも角は一切ないまろやかな紅茶という印象を受けた。不機嫌なときが一切ない、いつも笑顔の人気者がなんだか頭に浮かんでくる。さっきの茎ほうじ茶もそうだったけれど、どちらも飲むと穏やかな心持ちへ導いてくれるような、そんな感じがある。

この椅子に座って過ごすときが、休息と充電の時間
この椅子に座って過ごすときが、休息と充電の時間

迎えてくれた客間の隣には、椅子と小机がセットで置かれた部屋があった。なんとも座り心地のよさそうな椅子の表情に、どうしても目が行ってしまう。聞けば白土さん、前職は家具会社だった。

「その会社で取り扱っていたものです。デンマークのデザイナー、ナナ・ディッツェルの椅子で、布も彼女のテキスタイル。どうしてもほしくて、頑張って買ってしまいました」

時間のあるときなどはここに座って、お茶かお酒を飲みながら音楽を聴いたり、好きな本を読んだり。近くには大きなステレオセットがあって、レコードもいっぱいだ。何を聴くことが多いかと問えば「ファンクロック」と即答。茶の味を楽しみつつ、ファンクロックに浸る時間っていいなあ。五感を好きなもので満たす時間は、何より英気を養ってくれる。白土さんのお茶時間の形が見えてきた。

奥の黒い急須もお気に入りのもの、たっぷり淹れたいときに使っている
奥の黒い急須もお気に入りのもの、たっぷり淹れたいときに使っている
白土さんの定番お茶うけ、長野県・松本市「餅屋と亀」の「かきもち」。シンプルな塩味で上質な米の味が引き立ち、食べ飽きない
白土さんの定番お茶うけ、長野県・松本市「餅屋と亀」の「かきもち」。シンプルな塩味で上質な米の味が引き立ち、食べ飽きない

良質なお酒の造り手を応援したい

40代後半に入ったばかり、仕事にやりがいを感じている。

「日本ってお酒の国内消費量が減っているんです。でもお酒の造り手は増えているんですよ。日本ワインなどは現在500ワイナリー以上もあってその個性も様々。小規模でも良質なお酒の造り手を応援したい、と思っています」

そうそう、と最後に教えてくれたのが、お茶割りの組み合わせ。香ばしい茎ほうじ茶には、香ばしい同士の麦焼酎の割り材にするのがいいとのこと。和紅茶ならフルーティな芋焼酎とペアにするのがおすすめなのだとか。

夏の夜にお茶を淹れてお酒と組み合わせ、じっくり楽しむ……なんてのはいかにもよさそうだ。今までとは違うお茶とのアプローチを見つけられて、うれしくなる帰り道。早速今夜、やってみよう。

最初に冷たい茎ほうじ茶を出してくれたグラスは、新田佳子さんの作。「ビールのタンブラーとしてもいいんです」
最初に冷たい茎ほうじ茶を出してくれたグラスは、新田佳子さんの作。「ビールのタンブラーとしてもいいんです」
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