『パパイアから人生』著者 夏井いつきさんインタビュー「俳句を始めれば、人生から退屈が消えます」
撮影・田中麻以 文・クロワッサン編集部
TVで人気の俳句コーナーが、もうすぐ丸12年。メディア出演の合間を縫うように全国を旅するのが夏井いつきさんの日常だ。
「ひと月の半分ぐらい旅ですね」
俳聖・松尾芭蕉のごとく俳句=旅なのかと思いきや、赴くのは「句会ライブ」。ライフワークとする“俳句の種蒔き”の実践だ。
「皆さんに俳句の楽しさを伝えることが生業。心のなかの敷居とか壁を壊さないといけないので」
俳句づくりを始めれば目に映るものすべてが句材。人生から退屈という言葉が消えると説く。
句会ライブの参加者は幼稚園児から90歳以上まで。前半は、誰でも5分で1句できる型をレクチャー。後半は、特選7句から会場の議論&多数決で1位を決める。
参加者は活発に発言するものなのですか?
「地方ではよく事務局の方に『うちの街の人は口が重くて、誰も手を挙げないと思います』と言われますが、実際困ることはあまりありません。『どの句が好き?』と聞くと皆さん喋る。人の句を語る形で、自分のことを語るわけです。『私も実はこの間こんなことがあって、この人も同じような体験をしたのでは』というように」
笑いあり時に涙ありのライブは自分の心に向き合うセラピーのようだ。ある会場で注目を集めた句があった。作者は小学生の女の子。緊張しやすい性格に悩む彼女に夏井さんは語りかけた。「お守りだと思って俳句を作り続けてごらん」と。
〈自分の中に“言葉の力”がチャージされていく。“言葉の力”を手に入れたら、いろんな人たちと繫がっていくためのアイテムが手に入る〉
夏井さんは繰り返し語る。「俳句は人生の杖」だと。
最初に俳号を決めること。新しい自分で世界に向き合う
「教育文化、観光経済、医療福祉。俳句でこの3つの分野で活動していくことで、人の幸せを満たすことができると思っています」
教育現場は息子である俳人の家藤正人さんが引き継いでいる。観光では故郷・松山で開かれる「俳句甲子園」が今年28回目で順調だ。
「残ったのが医療福祉で、『おウチde俳句大賞』も始めました」
リビング、台所、寝室など、家の中をテーマにしたコンテストだ。
「お年寄りを想定していたところ、世間からの疎外感を感じている人たちが入ってきてくださるようになった。子育て中のママパパや、引きこもっている方、介護中の方も」
俳句で人と繋がる、それは誰にでも開かれている道なのだ。
自分もつくってみようかな、と思ったらどうしたらいいですか?
「まず俳号(ペンネーム)をつくりましょう。生身の自分で世間と立ち向かうのはしんどいこと。俳句やらなくてもいいから(笑)、新しい名前の自分で世の中を見るとちょっと違って見えます。俳句をつくったら、無料で投句できるところがあるので送ってみて。たまに褒められると自己肯定感が上がります。その幸せ感をチャージしながら、生きていきましょうね」
『クロワッサン』1146号より
広告