涼やかな、夏の誘惑。ノスタルジックな“かき氷”の名店3選
撮影・川上朋子 文・西村佳芳子
目白志むら(目白)
贅沢な現代版かき氷の代表作
平安時代から存在したかき氷は、江戸時代になると氷室から城に献上され、やがて庶民にも親しまれるように。近頃は工夫を凝らした華やかなかき氷の専門店が増えたが、そのブームの草分けがこちら。約15年前までは白玉やあんこ、シロップをかけたシンプルなものを提供していたが、フレッシュないちごを楽しむ「生いちご」を皮切りに、山盛りの氷にオリジナルのシロップを合わせた現在のスタイルに。季節の食材を使った期間限定品は4〜5種類。四季折々の上生菓子を作る、和菓子店ならではのバリエーションだ。
船橋屋 亀戸天神前本店(亀戸)
江戸末期から育て続ける乳酸菌入り
文化2年(1805年)、亀戸天神社の境内で暖簾を揚げた『船橋屋』は“元祖くず餅”で知られる。くず餅は小麦粉の澱粉を長期発酵させて作るが、その過程で見つかった乳酸菌の一つは、『船橋屋』独自のもの。創業から220年の間、木樽で熟成され続ける乳酸菌は戦禍も逃れ、今さまざまなメニューに活用されている。夏の定番だったかき氷にも近年使い始め、「食べると調子がいい」と評判のくず餅と同じく、「冷たくてもお腹に優しい」かき氷に。こくのある黒蜜や、香り良いきな粉など永く愛されてきた味を江戸に思いを馳せて楽しみたい。
甘味処 みつばち 本店(湯島)
あずきの甘みで氷を食べる、江戸の流儀
1909年にこの地で氷業を始めた創業者の妻は、秩父の生まれ。江戸から昭和にかけて主要産業だった養蚕業に欠かせない氷室が多く造られた街だ。「氷屋を始めたのは、きっとそのルーツがあるからだと思います」と現店主。北海道産大納言を手作業で選りすぐり、崩れないように丁寧に煮たあずきを添える「氷あずき」は、開業後まもなく生まれた味。一説によれば、江戸時代のかき氷もあずきを添えるのが定番だったとか。錫の器に盛られた姿は、目にも涼やか。暑い夏にもぴったりの、すっきりとした甘みだ。
『クロワッサン』1145号より
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