『モダン・タイムス・イン・パリ1925─機械時代のアートとデザイン』ポーラ美術館【青野尚子のアート散歩】
文・青野尚子
機械の美を愛でるアートとデザイン。
新しいスマホや車を買ったとき、出費は痛いけれどやっぱりわくわくしてしまう。およそ100年前、飛行機や蓄音機などが普及し始めたときにも人々はそんな気持ちになったはず。その気分が伝わってくるアートやデザインが箱根のポーラ美術館で展示されている。「マシン・エイジ」、機械の時代とも呼ばれた1920~30年代を中心に、現代美術までが並ぶ。
最初の展示室では青い車が目を引く。これを製造したブガッティは彫刻家の祖父と、家具・宝飾デザイナーの父のもとに生まれた。車はただ走ればいいってものじゃない、美しくなければ。そんな彼の声が聞こえてきそうだ。
その次の展示室に並ぶ香水瓶の多くはアール・デコ様式によるもの。その前に流行したアール・ヌーヴォーが主に手仕事によって作られたのに対して、幾何学的な形を多用したアール・デコは大量生産に向いたデザインだった。機械から生まれたエレガントな形だ。
展示の最後にはセクシーなロボットのイラストで人気の空山基の立体作品や、インターネットでユーザーがクリックすると形が変わるアートなどを発表しているラファエル・ローゼンダールら、現代アーティストの作品が並ぶ。今もSNSの普及やAI技術の進歩で私たちの心は揺れている、そんな状況を暗示しているようだ。機械の誘惑と怖れが入り混じった複雑さがアートやデザインに現れている。
『モダン・タイムス・イン・パリ1925─機械時代のアートとデザイン』
開催中~5月19日(日)
●ポーラ美術館(神奈川県足柄下郡箱根町仙石原小塚山1285)
TEL.0460・84・2111
9時~17時 会期中無休
一般1,800円ほか
機械に対して冷めた目を向けたダダやシュルレアリスムの作家も登場。杉浦非水のポスター、ロボットが描き込まれた古賀春江の絵など、日本の作品も充実している。モネやゴッホなど常設作品も見逃せない。
『クロワッサン』1111号より