「今日の着物は”海面に映る月”がテーマ」、ギフトコンシェルジュ・裏地桂子さんの着物の時間。
撮影・青木和義 ヘア&メイク・桂木紗都美 着付け・石山美津江 文・大澤はつ江
着物と帯はセットで誂えます。自信を持って外出できますから。
「着物と帯でストーリーを作るのが好きです。今日は“海面に映る月”がテーマ」
絽の生地に刺繡を施す『絽刺し』の手法を用いて「波」と「浮き」を銀糸などで刺繡した訪問着。そこに金糸、銀糸で「月の満ち欠け」を織り出した夏袋帯を合わせたコーディネイトは、月の光が波間に浮かぶ浮きを照らし、さざ波の音が聞こえてくるようだ。
「絽の帯揚げもブルーで海のイメージに。帯締めの黒と白で全体を引き締めました。着物は墨黒で裾部分を斜めに素鼠(すねずみ)にした染め分けです。夏場は濃い色の着物を着ることが多いですね。白い長襦袢が透けて見えて涼やかでしょ。涼感は夏着物の重要な要素ですから」
40代にさしかかるころ、着物の扉をたたいた裏地桂子さん。きっかけになったのは、
「華やかな席にお誘いを受けたときに“着ていく服がない”と思ったんです。それまで着ていた流行の服がどうもしっくりこない。体形などが変化していたのと、好きな服を着て許された30代とは違うんだ、という自覚で、ますます何を着たらいいか悩んでしまって。その時に着物が頭に浮かびました」
幸い結婚した際に両親が誂えてくれた着物がたくさんあり、その中から選んで着ると、
「みなさんがほめてくださる。大人になってから、人にほめられることってそうそうはないですよね。私自身もうれしかったですが、なにより着物から会話がはずみ、人と人が繋がっていくんです」
それからは積極的に着物で出かけるようになった裏地さん。でも問題が出てきた。20代で誂えた華やかでかわいらしい柄や色の着物は40代では似合わない。肌の色も体形も微妙に変化している。そこで着物の種類、産地、柄の意味や手法などについて勉強を始め、そのうえで、自分が着たい着物とは?を考えるように。
「吟味して作った着物はどれもピタッと寄り添ってくれます。私はストーリーのある装いがモットー。着物と帯はセットで誂えます。この着物にはこの帯、この帯にはこの着物とベストを作り、季節や出かける場に合わせて選びます。小物類もある程度、組み合わせて揃えておけば慌てませんし、あれこれ悩むこともないです。マイベスト=オンリーワンがあれば失敗せずに自信を持って外出できます」
そのように選び抜いたコーディネイトは今や60組を超える。
「このほかに、帯はクリスマス、お雛様、端午の節句などに締めたい期間限定のものも多数あり、その数や……(笑)。一応、すべて把握していますけれど。実は今、30組程度に減らす算段に取り掛かるところなんです」
というのも東京・人形町と愛媛・道後の2拠点生活をしている裏地さんだが、2025年には道後への完全移住を視野に入れている。
「ミニマムな生活をしたいと思っています。それに伴って着物もたくさんは必要ないと思い、本当に着たいものや思い出があるものなどを中心に手元に残してほかは整理しようかな、と。それにこれから先、着る着物は限られると思うんですよね。60組は絶対に着ないし、派手になったものもありますから」
長年、数々の着物に向き合ってきた裏地さん。今後は必要な着物のみを楽しみたいという。
「今年、還暦の節目を迎えるにあたり、記念に2年前から最強のワンセットに着手しています。完璧な一枚! 白生地から選んでグレージュに染めました。柄は内緒です。それに合わせて帯は手持ちから3本セレクト。出来上がった着物は半衿、足袋、鼻緒を白で統一して着こなしたい。特に衿元はピシッとさせてキリリと。着物の魅力はいろいろありますが、着物でストーリーを作り、装うことで人生が楽しく豊かになるような気がします」
『クロワッサン』1097号より