『わたしとあなた 小さな光のための対話集』著者、野村由芽さんインタビュー。「問い続けることを大事にしたい」
撮影・中島慶子 文・本庄香奈(編集部)
「問い続けることを大事にしたい」
わたしとあなた――最小単位の関係性から社会を捉え直すリトルマガジンから、結論を急がず、“長い話をする”ための対話集が生まれた。
ジェンダー、心の健康、SNSに抱く違和感……声にできなかった思いや、普段は語られにくいことについて、編集者である野村由芽さんと竹中万季さんが、異なる13人を招いて対話を行う。
企画・編集をした野村さんは、「個人の思いを大切にすることで、一人一人が手に持つ小さな光が、たくさん集まるような場所になれば」という思いで、本を編んだ。
「9月末から一部一般書店への流通が始まり、そろそろ読み終わる人が出てくる頃。付箋をたくさんつけてくださっている方も多く、人によって響く箇所、気になる箇所が違うんだなと感じています」
清水晶子さんとマイノリティについて考えたり、伊藤絵美さんにメンタルヘルスについて教わったり、武田砂鉄さんとジェンダーギャップについて男女の立場で意見を交わし合ったり……、論客もテーマも今読みたい人・ことばかり。
「自分だけにしかわからないような癖だったり、違和感、どうしても忘れられないこと、なんでかわからないけど自分を形作ってしまったことっていうのはその人にしかないもので、個人というのは複雑で曖昧なものだと思います。
そんな個人個人が、どうしたらお互いを踏みにじることなく、尊重しながら手と手を取り合って生きることができるのか、人と人が違うままで共に生きていくことができるのか――そういうことを考えていきたい。そのために必要な知識や価値観について、一緒に考えたいと願う人に会いに行きました」
答えは必要ない。対話自体に価値がある。
収録された対話は最後に答えを出すわけでもなく、「また話しましょう」と終わる章もある。
「問い続けることを大事にしています。簡単に答えを出すのではなく、この本は可能性を広げていきたいんです。
一冊の中には、もしかしたら違うことを言っている方もいるかもしれないし、読んでいる方もこれは違う、これは自分と重なる、とそれぞれあると思うので、その幅、一つの物事にあるいろんな角度を見てもらえたらいいと思います。答えは一つにはならなかったけど、いろんな可能性を共有できたね、と感じてほしい」
あらゆる時代の人が、言えなかったことを抱えてきた。その実感も一つのモチベーションになった。
「私は祖母が大好きです。祖母は聡明な人ですが、時代的に存分には夢を叶えられなかった。人の数だけ想いがあるのは、本当は当然のことなのに、ないことにされる場面があまりにも多すぎる。だから、こんなこと人に話さなくていいかもと思うことも、無理のない範囲で話してみたら、何かが変わるんじゃないかな、と思うんです」
山積みの社会問題も、変わっていく価値観も、立ち止まらずに話し合う。答えはなくとも、その道筋にこそ光があるはずだ。
『クロワッサン』1085号より
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