伝統文化の世界で活躍中の貴公子、華道家・小原宏貴さん。「不思議と子どものころから草花が好きなんです」。
撮影・青木和義 構成と文・新森実夏
小原宏貴さんのいけばな実演で驚いたのが、草花への優しいまなざし。
「いける時に大事なのは植物との対話。言うことを聞いてくれない時もありますが、それも面白い。いけばなとは、足すのではなく極限まで引いて花材の個性を生かすもの。思考の整理にもなります。ですので作品には、いけた人自身が強く反映されるものなんですよね」
小原さんが6歳で家元を継いだ小原流の創流は、西洋の草花が入ってきた明治時代。特徴は、「水盤」と呼ばれる平面状の器に盛るようにいける盛花(もりばな)の技法。室町時代から花瓶や壺にいけるのが基本だった世界への新風となり、いけばな三大流派のひとつとなった。
「家元といっても何をしているのかわからない不思議な役割かもしれませんね」と笑うが、国内外での創作活動のほか、校長を務める「小原流ビギナーズスクール」や、大正大学の客員教授としても登壇。いけばな花材の生産者支援や、気鋭の陶芸家とのコラボなど活動は幅広い。
「いけばなを次世代にどう伝えるかが課題。昨年、マイクロソフトと組んだイベント『IKEBANA × TECHNOLOGY』では、仮想現実上の自然と融合する試みに挑戦。“いけばなは命と向き合うこと”という室町時代からの哲学はそのままに、新しい取り組みができたことがうれしかったです」
2年前に結婚し、今春に愛娘が誕生。「家ではごく普通の父親です。貴公子なんて恐れ多い」と照れ笑い。
「私は早くに父を亡くし、後見役の先生がいけばなの道に導いてくれました。厳しい稽古というよりも、多様な植物の魅力に触れることや自由にいける楽しさを教わったことが大きかったです。いろんな葛藤もありましたが、いけばながずっと好きです。流祖からのDNAを継いでいるのかな、と感じます」
趣味の山歩きや散歩でも、目がいくのは道端に咲く花や民家の庭の枝。小原さんとって華道家は間違いなく天職。
『クロワッサン』1054号より