流浪のコレクションが一堂に集結!国立西洋美術館『企画展「松方コレクション展』
文・知井恵理
今年、開館60周年を迎える国立西洋美術館。実は、松方幸次郎という実業家が収集した絵画や彫刻を保管展示するための美術館として設立されたことをご存じだろうか。当時、日本にはなかった西洋美術の美術館建設を目指して、彼が1910年代半ばから購入した芸術品は1万点超。しかし、昭和金融恐慌や2度の戦争を経て、それらは焼失やフランス政府による接収、国内外への散逸などの目に遭い「幻のコレクション」と呼ばれることとなった。今回は、近年新たに発見されたモネの作品を含め、現存の松方コレクションが集結。開館史上初の大規模展示となる。
「本展はプロローグとエピローグのほか、8章に分かれ、松方の収集の歩みを追体験できるようになっています。たとえば、第1章ではあえて絵画を段掛けで展示し、20世紀初頭のロンドンで松方が目にしたであろう美術館の雰囲気を出しました」(国立西洋美術館主任研究員・陳岡めぐみさん)
見進めるにつれ、松方氏がいかに精力的に芸術品を収集したか、生々しい熱気が伝わってくる。1920年代初頭には、パリの有名画廊で次々に重要作品を購入。当時の新聞で、「彼は突如ヨーロッパにやってきて(略)画廊から近代絵画を空っぽにしてしまった」と話題になった。気むずかしいといわれたモネとも親交を深め、本人から直接作品を購入。そのひとつが、3年前にルーブル美術館で発見され、本展でも鑑賞できる『睡蓮、柳の反映』だ。
「最晩年の『睡蓮』の前に描かれた貴重な作品です。デジタル推定復元と修復したオリジナルを見比べてみるのも面白いと思います」
オリジナルには、生き生きとした筆致や色使いが見られ、画布の半分が欠損していながらも大作としての迫力は少しも損なわれていない。こうして激動の時代を生き抜いてきたコレクションの数々を通して、1900年代初頭の西洋美術の息吹や、それを目にした松方氏の熱い魂の鼓動を感じてみてほしい。
松方幸次郎(まつかた・こうじろう)●川崎造船所の初代社長に就任。実業家として活躍する一方で、精力的に美術品を収集。1950年死去。
『松方コレクション展』
国立西洋美術館 〜9月23日(月・祝)
東京都台東区上野公園7-7 TEL.03-5777-8600 開館時間:9時30分〜17時30分(金・土曜〜21時。入場は閉館30分前まで) 月曜休館(ただし、8月12日、9月16・23日は開館) 料金・一般1,600円 artexhibition.jp/matsukata2019/
『クロワッサン』1002号より
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