お鍋の使い方で世界は二分される。│金井真紀「きょろきょろMUSEUM」
季節はずれで恐縮だが、わたしは鱈の白子が好きである。塩焼きもいい、ポン酢もいい。うぃ〜、酒もってこい。で、かねてより温めている野望がある。白子は各地でいろんな呼び方をされている。青森では「たづ」、岩手では「菊」、福井では「だだみ」、京都では「」…。たとえば青森から岩手へと赤提灯をハシゴして行き、どこで呼び名が変わるのかを調査したい。あるいは若狭街道を旅して、だだみと雲子の境界線を見つけたい。前代未聞のディープな酔っ払い旅になるであろう。
そんな秘めた野望を思い出したのは、台所見聞録展で「鍋を吊るす/置く」の境界線を知ったため。
宮崎玲子さんは30歳から建築を学んで建築家になった。’70年代から世界50か国以上を巡り、各地の台所を調査。その成果を発表する際に、世界地図に記してみて仰天したという。北緯40度付近を境に、伝統的な鍋の使い方に大きな違いがあったのだ。寒い地域では暖炉や囲炉裏など燃えている火の上に鍋を吊るし、高さを変えて火加減を調節するスタイル。一方、暑い地域では調理のたびに火をおこし、そこに鍋を置いて煮炊きする。その境界線が北緯40度付近だったとか。
宮崎さんが作った世界各地の台所模型のすばらしいこと! 食材や調理器具はもちろん、部屋の隅に置かれた雑貨や同居している動物までものすごく丁寧に再現されている。建築のプロが手がけた夢のドールハウスといった趣で、見ても見ても見飽きない。
『台所見聞録―人と暮らしの万華鏡―』
LIXILギャラリー(東京都中央区京橋3-6-18)にて8月24日まで開催。建築家の宮崎玲子さんと研究者の須崎文代さんの調査による世界の伝統的な台所と近代日本の台所の変遷を再現模型や資料など約90点で展示。TEL.03-5250-6530 10時〜18時 水曜、8月10〜15日休館 無料
金井真紀(かない・まき)●文筆家、イラストレーター。最新刊『虫ぎらいはなおるかな?』(理論社)が発売中。
『クロワッサン』1001号より
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