ドーナツを上手に焼ける!?│山口恵以子「アプリ蟻地獄」
イラストレーション・勝田 文
これはドーナツとドリンクを商う、謂わば食堂ゲームアプリ。腕を上げるにつれ、店の内容もドーナツからパンケーキ、ハンバーガーへとグレードアップする仕組みとか。
おお、まるで私のために誕生したようなゲームじゃありませんか。だって私、元食堂のおばちゃんだもん。
「任せなさい!」
ホットプレートにドーナツを載せ、焼き上がったら皿に移す。お客さんの好みによってはトッピングして出す。ドリンクとセットだったり、ドリンクのみの場合もあり。
これだけの内容なのに、実際にやってみると本当に難しい。
ホットプレートに載せたドーナツはグズグズしていると焦げてダメになるし、四種類のトッピングはあわてると間違えるし、ドリンクの追加が間に合わなくてお客さんが帰ってしまったり、かと思うとお客さんが途切れて焼けたドーナツが余ったり、もうホント、てんてこ舞い!
挙げ句の果てに「遅いんだよ!」とオーナーのおっさんにダメを出され、プライドはずたずたに……。
正直、生まれて初めてゲームでマジ切れしました。反射神経や数学力がダメなのは仕方ないけど、まさか食堂ゲームでこのテイタラクとは。
五年前、食堂を辞めて専業作家になった時、私は「小説がダメだったら、また食堂に復帰して働けば良いや」と思っていた。しかし、その考えがいかに甘かったか、今回痛烈に思い知らされた。パンケーキにすら届かず、ドーナツで撃沈でした。
私、もう食堂には戻れないの!?
山口恵以子(やまぐち・えいこ)●作家。近著に『夜の塩』(徳間書店)。
『クロワッサン』1000号より
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