母はお気に入り番組を ラジオで聴けたのか!?│しまおまほ「マイリトルラジオ」
前号で放送大学のFM放送が終了しradikoのみの放送になり、スマホを持たない母が困り果てている、という話題を紹介した。今回はその後日談。
放送大学の終了後、母はNHKラジオ第1を聴いて凌いでいた。ただ、バラエティー色の強い番組は聴く気にならないそうで、タレントのテンションの高いタイトルコールが聴こえるとプチッと電源を切ってしまう。1秒たりとも、聴いてたまるか。そんな感じで、サッと手を伸ばし、プチッ。その動作には、母の気持ちがよく表れている。
さらに、高齢者向けの番組もお気に召さないらしい。昭和初期の流行歌など流れると「ハハハ」と乾いた笑い声を出しながらしばらく聴いて、プチッ。切ってしまう。切った後は父と「あんな歌あったワネ」なんておしゃべり。“やかましい”のも“年寄り扱い”もイヤな、昭和15年生まれの母である。
そして、放送大学。
わたしは、以前ラジオ局からいただいた記念品のAIスピーカーを実家に持ち込むことにした。
「OK、グーグル」この呪文さえ唱えれば母の悩みは解消する。果たして使うことができるのか。半信半疑で設置して、両親に使い方を教え帰った。
後日、実家へ行くと放送大学が流れていた。どうやら使いこなせているらしい。
「そろそろ『すっぴん!』の時間ね」
そういうと母は「OK、グーグル、ストップ!」と、AIスピーカーを止め、食器棚の上にあるラジカセのダイヤルをNHKに合わせるのであった。
しまお・まほ●エッセイスト、漫画家。1997年『女子高生ゴリコ』でデビュー。著書に『マイ・リトル・世田谷』。
『クロワッサン』985号より
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