とは、木皿泉さんのかたわれ、妻の年季子さん。子どもの頃の話も鮮明に描かれ、その記憶力には驚かされる。文字を読んでいるのに、シーンが映像で浮かぶのだ。
「誰が何をしていたか、けっこうしっかり映像で記憶しています。目の前に映像的なものが見えないと、短いエッセイも書けないくらい」
同時に、“君は僕のクリーンヒットや”とか“どこにいても私らしくいられるのは、私の好きな彼のおかげ”など、夫との愛を感じるエピソードには心温まる。毎日延々と会話するので、どれがどちらの考えとの区別もなく書き進められるが、行き詰まった時のヒントは夫の得意分野。“お金がみかんみたいに腐るものだったら、腐らないうちに人に配ることができる”という名言を含む〈みかんとゾンビ〉の逸話に、ゾンビを提示したのも夫だ。
「ゾンビ映画の録画があると言われて30分くらい観たらピタッと文章も着地できた。たまたま家にあった腐ったみかんともつながって。もう、ぜんぶ撮って出しです。そこらへんのもので、という感じ。でも、そのほうがいいんですよね」