【ミスミノリコさんのお針箱】穴があいてもシミができても、「繕う」ことでもっと好きになる。
撮影・小出和弘 文・後藤真子
色とりどりの刺繡糸で繕った服や小物を紹介した著書『繕う暮らし』で話題のミスミノリコさん。裁縫の達人と思いきや、「そんな大がかりな裁縫は、していないし手芸の専門家でもありません。もともと習っていたのは染めや織りで、繕いやリメイクは趣味のようなものです」と控えめに微笑む。
美大でテキスタイルを学んだ後、縁あってウィンドウディスプレイの仕事を始め、その装飾を手作りするようになった。
「手作りといっても、ディスプレイの仕事ではつねに新しいものが求められます。それに対して、繕いものやリメイクをする時間は自分をリラックスさせる時間でもある。両方あってバランスが取れているという感じですね」
いまでは住まいのデコレーションやラッピング、小さなDIYのアイデアをメディアで紹介したり、ワークショップで教えたりもしている。
自宅のリビングの大きなテーブルがミスミさんの工房だ。このテーブルの上で着なくなった服を小物にリメイクしたり、シミや破れのある服を繕ってより愛らしく再生させる。
「愛着のある服は簡単に捨てられません。これは確かワンピースの生地だったかなあ」と話すのは、もこもこしたやわらかな風合いの針ケース。こんな素朴で温かみのあるケースに入れかえれば針の管理も楽しくなる。ほかにも、シミの周りに刺繡糸でランダムに簡単なステッチを入れ、シミを模様にまぎれさせた布製コースター、ネコにひっかかれて破れた指先に、ユーモアをこめてネズミの顔をあしらった手袋もある。「もう捨てるべき?」と迷っていた愛用の品がちょっとしたアイデアとひと手間で生まれ変わる。
「好きだったものを捨てる寂しさが減らせるうえに、もっと好きになれるので、おすすめです」
ミスミさんが裁縫道具を入れているのは、夫の祖母の家に眠っていたという古い竹の籠。ホコリにまみれていたその籠をきれいに拭いてお針箱にした。色とりどりの木綿糸や手作りのピンクッションが大切におさめられているお針箱は、どこか懐かしく、ほっと心が温まる。使い残しの糸を巻きつけた洗濯バサミなどからも、ものを愛おしむ気持ちが伝わってくる。
ものを繕うことを「お繕い」と呼ぶミスミさんに繕われたものたちが、前よりも魅力を増して輝くのは、それらを愛おしみ、慈しむ気持ちがあってこそ。「お繕い」は心の贅沢、豊かさにもつながっている。
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