【杉田成道さんの場合】家庭円満の夫に聞く、捨てられない極意。
撮影・岩本慶三 文・嶌 陽子
先行き短いという意識があるから今を大切にしようと思う。
「前の結婚の時の経験が、今の結婚に生かされてるなんてことはないですよ。そもそも相手が違うんだから。カメレオンのように、それぞれの相手に合わせるので精いっぱいです」
それでも、様々な人生経験を重ねてきた杉田さんだからこそ考える、夫婦の上手な付き合い方もある。
「恋愛って幻想でしょう。相手の実体は見えていない。だけど、結婚は日常。いわゆる“箸の上げ下げ”の世界ですよ。それが我慢できているうちは何とか大丈夫。毎日、その人のコアな部分というか、の自分がお互いもろに出ちゃうからね。ただ、夫婦を長くやってると、お互いの間の距離の置き方、いわば“幕の張り方”がわかってくるんです。要はほどほどに付き合うこと。相手に期待し過ぎないことですよ」
時には些細なことでケンカして、「何でこんなやつと結婚しちゃったんだ」と思うことも。それでも、
「ケンカできているうちが花。本当にダメになると、ケンカもできないから」
今年、74歳を迎えた。年を重ねたことで生まれた変化はあるのだろうか。
「年を取ると気が短くなって、すぐかっとなる(笑)。ただし、根が深くないから、傷も浅いんです。それと、やっぱり“先行きが短い”という気持ちがあるから、今という時間を大切にしようという思いはありますね。そう考えると、今が一番幸せなのかなあ。それは、きっと妻も一緒だと思いますよ」
もう年だから、子どもを抱っこするとすぐ足腰が痛くなっちゃうんだ、と笑う杉田さん。とはいえ、健康維持のために運動を欠かさないというその姿は、エネルギーに満ちているのだった。
杉田成道(すぎた・しげみち)●日本映画放送(株) 代表取締役社長。1943年、愛知県生まれ。国民的ドラマ『北の国から』シリーズや、映画『優駿 ORACIÓN』など、数々の名作の監督を手がける。
『クロワッサン』964号より