『永遠の道は曲りくねる』宮内勝典さん|本を読んで、会いたくなって。
人間とは何か? 問い続けた3部作の完結編。
撮影・小出和弘
小説家・宮内勝典さんによる7年ぶりの長編小説。冒頭描かれる沖縄の海が美しい。「目に見えるよう」とはこのことをいうのだろう。
「もとが画家志望なものですから、目が強いんですね。逆に聞くほうはダメ。すぐ忘れてしまいます」
と宮内さん。『ぼくは始祖鳥になりたい』(’98年)、『金色の虎』(’02年)に続く、3部作の完結編。
「器用じゃないものですから、長編小説としては、僕、これが9作目なんですね。70歳を過ぎて。なんとも寡作なもんですねえ」
宮内さんの作家人生はこの3冊を書くためにあったのではないか。そうとさえ思わせる力作の主人公の名はジロー。かつて宮内さんが使っていた名前だという。
「若い頃アメリカでビザが切れてしまい、仕事に就くときやアパートを借りるときに、仕方なく名乗っていた名前なんです」
ジローは北米インディアンの過酷な儀式を体験し、南米では反政府ゲリラとともにボートで国境を越え、ヒマラヤの洞窟で聖者と出会う。これらもすべて、宮内さんが実際に経験したことだ。
「小説を書くときは想像力と、肌身で体験したことを合わせているんですね。体験をお腹にとどめたまま、10年20年待つわけですから、なかなかの難産です(笑)」
ジローの旅は単なる地図上の移動ではなく、「人間とはなにか」「自分とはなにか」と問い続けた、精神の高みを目指す旅だった。だから読む者は同じ問いを問わざるをえず、激しく心揺さぶられるのだ。
今作の舞台は沖縄。全学連のリーダーであった老医師、島で生まれたハーフの姉弟、沖縄の伝統的な女性シャーマン、PTSDに苦しむアメリカ兵など、生きづらさを抱えながら、それでも誰かを癒やしたいと願う人々が登場する。そのなかで翻弄されつつも、生きる道を模索するジロー。
その姿は、この世界を取り巻くどうしようもない状況のなかで、戦うことも逃げることもできずにもがく、いわば「中動態」的なありかたを象徴しているように思える。そんなジローが行き着くのは……。
ラストシーンもまた美しい海だ。太平洋のビキニ環礁、かつて水爆実験が行われた海で泳ぐジローはバッタリ、思わぬ相手と出会う。
「これも実体験なんです。これが3部作のラストシーンだ、いつか書こうと思って何十年もお腹の中にしまっていたんですね」
小説家とはなんと我慢強く忍耐強いのか。砂浜で涙を流し産卵するウミガメの姿が目に浮かんだ。
河出書房新社 1,850円
『クロワッサン』965号より