『騙し絵の牙』塩田武士さん|本を読んで、会いたくなって。
新しいメディアミックスを具現化した小説。
撮影・森山祐子
ページをめくると、俳優・大泉洋さんが物語の中で生き生きと動きだす。本作は、主人公に大泉さんを「あてがき」するというこれまでにない手法で描かれた、いわば “大泉洋主演小説” だ。
「ヒット小説に映画会社などから声がかかって映像化し、配役が決まっていくというこれまでの雛形ではない、新しいメディアミックスの形が念頭にありました。出版業界の規模がこの20年で1兆円縮小している今、それでも僕は小説の力を信じてる。読み手が想像し、自分なりに解釈できる深みは活字だからこそ。その小説をもう一度、エンターテインメントの中のセンターに、という思いで、映像化も見据えて仕掛けていく。それを具現化したのがこの本なんです」
そう語る塩田武士さんが、本作の舞台に選んだのは、まさにその出版界。愛すべき「人たらし」の雑誌編集長、速水輝也が、休刊の危機にある雑誌を守るため奔走する物語だ。見所のひとつは、軽快でウィットに富んだ会話シーン。
「とにかく大泉さんを研究しました。『~でしょ』みたいな独特の語尾、イジる、イジられるの応酬、あとは、実際の彼のレパートリーからお借りしたモノマネ。さらに内面で言えば、柔和さの裏に仕事へのシビアな一面を持ち、二枚目も三枚目も演じられる、その振り幅の大きさが大泉さんの唯一無二の華になっている。そのすべてを速水に当てはめていきました」
斬新な試みに挑みながらも、単なる色物の作品ではない。廃刊にリストラ、他業種の参入まで、出版界の現実問題が盛り込まれる。
「あくまで大人が読める社会派小説に仕上げたかったんです。雑誌は書籍同様、販売が激しく落ち込む一方、デジタル化の波で急速に構造が変わっているメディア。出版界の縮図であり、どの業界も過渡期にある今の世の中を最も体現しているものだと思います。各所への取材をかなり掘り下げ、業界の問題点を浮き彫りにしているので、出版社の方々からは『リアルすぎて痛い』と言われますね(笑)」
組織の闇や時代の変革と対峙しながら、活路を見出していく速水。エピローグでは、現実の出版界の未来を示唆しつつ、速水のもうひとつの顔に焦点があたり、読者は “騙し絵” の意味に気づくことに。
「大泉さんの事務所からいただいた、『プロローグとエピローグで速水の笑顔の意味が180度異なる物語に』という要望がヒントになりました。人は多面的な生き物で、誰しも騙し絵的な側面がある。社会派小説って、そういう人間の本質を描いてこそだと思うんです」
KADOKAWA 1,600円
『クロワッサン』962号より
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