『久米宏です。』久米 宏さん|本を読んで、会いたくなって。
細かいことにこだわることは無駄ではない。
撮影・中島慶子
本を開くと冒頭 “この本は、かなり詳細です。つまり、かなり面倒な内容とも言えます” とある。
その言葉どおりに本書は『ぴったし カン・カン』『ザ・ベストテン』『ニュースステーション』など久米宏さんが関わった数々の人気番組の舞台裏が、あますことなく綴られている。
「僕は放送業界しか知らないですから、いわゆる普遍性が出て、どなたにも参考になるようにするのに苦労しましたね」
今年でテレビ、ラジオ人生50年を迎えた久米さんがずっとこだわってきたことがある。
「ベストテンでいえば、僕は黒柳徹子という人がいかに魅力的な人かというのをわかってもらいたくて番組を進めました。それは(『久米宏のTVスクランブル』での)横山やすしさんや小宮悦子さんに対してでも同じ考えでした」
出演してきた番組の多くは生放送。久米さんの当意即妙の受け答えを楽しんだ人も多い。
「アナウンサーは美辞麗句を使って表現する職業だという伝統がありますが、生放送ではその時に思いついた言葉がいちばん力があるんです。たとえばサッカー中継で言えば『乾坤一擲のコーナーキック』とか使いたがりますが、僕からすればそれは生きている言葉ではない。『今のコーナーキック、目をつぶって蹴ったぞ』とか言うほうがよっぽど見ている人に伝わる。それが生放送の魅力ですね」
『ニュースステーション』では、話し言葉でニュースを伝えることを心がけたという。
「記者が書いた原稿は音になったときにどう伝わるかを考えていないんです。一回息を吸って吐いたら文章が終わるように短くしたり、『白い洗いたてのシャツ』とあったら『洗いたての白いシャツ』と形容詞を主語の近くに置くようにするとか、それまでのニュース番組で常識だったことを、もっといい方法があるんじゃないかと思っていやになるぐらい変えましたね」
“僕は細かいですから” と言うと見慣れた笑顔を浮かべる久米さん。
「僕もそうですが、偶然選んだ職業でも一生懸命続けていけば何らかの答えは出ると思うんです」
冒頭の言葉の続きは、 “最後の「簡単にまとめてみる」をお読みいただくと、一瞬にして本書の内容がわかります” 。確かに久米さんの略歴と国内外の出来事を記した年表付きのエピローグは『ニュースステーション』でフリップを使った説明のように一目瞭然。本書もひとつの報道番組なのかも。
世界文化社 1,600円
『クロワッサン』961号より