唐津焼の注目したい作家たち《1》
撮影・青木和義 文・片柳草生 編集・二階堂千鶴子
安永頼山さん 鎮西窯
登り窯の焼き方にこだわって、唐津焼の新たな自然美を引き出す。
安永頼山さんを唐津焼に駆り立てたのは、作陶家・田中佐次郎の器との出合いだ。出張先で、たまたま覗いたギャラリーでやっていた個展。やきもの好きな安永さんは、見るなり、とりこになってしまった。佐次郎さんの茶碗が人生の流れを変えたのである。
唐津の佐次郎さんの工房を訪れるうちに、自分も作りたいという気持ちが募っていった。弟子はとらないという師に頼み込んで、修業に入ったのは30歳過ぎだ。人里離れた工房で、師は禅の精神のもとに、湧水が流れる自然と一体化しながら作陶をしていた。唐津焼の本質を掴んだ人の人間性と精神性を、深く心に刻み込んだ。
「人生の師匠で、先生に代わる人はいない」と、師の生き方考え方は、安永さんのバックボーンとなっている。
徹底した用の美に 裏打ちされた使いやすい寸法。
堆積層である唐津の土はさまざまな土が混ざってバリエーション豊富だ。唐津焼の色は土の色なのである。「とにかく土をしっかり焼いてやらないと、色が出てこないのです」
しかも焼き方を変えることで無限に広がっていく。窯焚きこそ勝負だ。大きな登り窯で薪を焚くこと、35〜40時間。出口の煙突を絞って不完全燃焼の状態を続け、圧力をかける焼き方をすることで、思いがけない発色や土の面白さを引き出す。
「やきものに長い時間、我慢してもらって、じっくり焼くんです」
そんな安永さんの器は、見た目が実に渋い。料理を盛ってくれた『ひら田』の店主が、感心する。「間口も深さも使いやすい器です。盛っていてイメージが湧きやすい。こんな鉢にはなかなか出合えないものです」
唐津の寂びた色合いの向付からは、車海老や銀杏が秋の気配を伝えてくる。見事に料理を引き立てている。深すぎず浅すぎず、そっと料理を包み込むような形の小鉢は、家庭で和え物を盛っても刺身を盛っても美味しそうに見えることだろう。
「フォルムの美しさも合わせ持たないと」と、安永さんが苦心した粉引は、しっかり焼けた肌が美しい。食卓でも重宝して活躍するに違いない。
安永頼山(やすなが・らいざん)●1970年、島根県生まれ。唐津焼陶芸家・田中佐次郎さんに2年間、藤ノ木土平さんに3年間師事、独立。
鎮西窯●佐賀県唐津市北波多大杉1129・4 TEL 0955・64・2830 ※窯元へ訪問の際には事前に問い合わせをしてください。
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片柳草生●文筆家、編集者。工芸、骨董、染色など多彩なジャンルに詳しい。著書に『手仕事の生活道具たち』ほか。
『クロワッサン』959号より
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