唐津焼の注目したい作家たち《1》
撮影・青木和義 文・片柳草生 編集・二階堂千鶴子
竹花正弘さん 浪瀬窯
いいものが出来ても、同じものをもう一度焼くことはできない。
古唐津に惹かれていった竹花正弘さんが、学生時代を過ごした九州に舞い戻ったのは15年前だ。
「手でものを作るのが好き。作業場も窯も自分で作りましたから」
こつこつと独力で作業小屋を作り、窯の基礎に使うレンガを数百個焼いた。助人もやってきたものの、1年がかりだった。窯は朝鮮から伝わった。古式の薪窯なのでロスが多く安定性に欠けるが、この窯から生まれる柔らかな質感こそ、竹花さんが求める古唐津の味わいなのだ。
浪瀬窯は、草深い山間にある。聞こえるのは風の音と虫のすだく音ばかり。桃山時代に朝鮮半島から渡来した陶工たちの原風景が重なって見える。絵唐津、無地唐津、斑唐津、朝鮮唐津、黒唐津、青唐津……。佐賀県一帯で焼かれ隆盛を誇った古唐津は、あるがままの土と釉薬を用い、心の赴くままに絵を描いた自然体のやきものだった。
17世紀前半、白磁鉱が発見されるや、大半の陶工が磁器を焼くことに転向。わずか30年ほどで古唐津は終焉した。「でも唐津焼の陶工たちが同じ窯で同じように磁器を焼いたのだから、その白磁も唐津焼といえると思う」と、竹花さんは、草創期の白磁にも心を寄せてきた。
形も模様も、うるさくない 無口な器をめざす。
唐津焼を焼く同じ薪窯で白磁を焼くと、灰が降るなどままならない。作り方を模索しながら、ようやく形になってきたところだ。素焼きをしない生掛けなので、とろんととろけるような柔らかな肌合いで、ふくよかな白い肌には、初々しさが宿っている。わずかずつしか作れないが、「大量生産ではないちゃんとした物づくりをしたい」と。
土ものも寡黙だ。使える器に重きを置いてきたが、形も作りもシンプルで端正になってきた。古唐津では、石が混じった“石はぜ”も見所とされたが、めざすのはきれいな肌。土づくりに時間をかける。食卓にあって主役は料理。主役を援ける助演者に雄弁さは禁物。すっきりした器を作りたいと思うのだ。
毎年自らに課題を課しながら試行を重ね、プロセスも方法論も変わってきた進行形の器。古唐津への憧れが、一歩ずつ“竹花唐津”へと変貌している。
竹花正弘(たけはな・まさひろ)●1974年、東京都生まれ。熊本大学卒業後、唐津市あや窯で3年修業。1年間かけて窯をつくり、浪瀬窯と命名し独立。
浪瀬窯●佐賀県唐津市厳木町浪瀬929・1 http://www.namisegama.com ※窯元へ訪問の際には事前に問い合わせをしてください。
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