山崎ナオコーラさんの歴史小説嫌いは治せない!?
撮影・千葉 諭 文・一澤ひらり
「この小説は主人公の家久の戦場での活躍をメインに描いているけれど、その姿は決して類型的なヒーローではないんですよね。自分の長所を発揮できるのは戦場だからがんばってしまう。自由奔放というよりむしろその生き方は悲劇的というか、切ない感じで書かれていて、本当に望んでいるのは家族との絆や、平穏な日々だったっていうのが、私の普段の考えにしっくりきたんです。こういう戦国武将小説もあるんだなって、認識を新たにしましたね」
合戦場面が大半を占める本作の中で、ホッとひと息つけるのは女性ながら文武両道に優れ、やがて家久の妻になる葉という女性の存在だ。
「登場人物の中ではお葉が一番わかるというか、好きなキャラクターでした。男性の登場人物は全員、人を手にかけているから本質的に好きにはなれないですけど、ただ兄弟の中で一人違う母から生まれた家久の切なさとか、心の底の苦しみとかは惹かれるものがありましたね」
天性の才能で戦場では無類の強さを発揮する家久だが、妻の葉にはまったく頭が上がらない。何かあるたびに妻に叱られ、すると〝口をへの字に曲げてうな垂れる〟ばかり。その有様は息子の又七郎の目に、〝物心ついた頃から、父は自分よりも子供だった〟と映る。
「その又七郎が初陣で戦に連れて行ってほしいと父に頼むときのやりとりは印象的でした。息子の初陣に反対しているのは妻の葉で、その剣幕を恐れて、戦に出るのを見合わせろと息子を口説くんですね。それでも、と抗議する息子に家久はこんなことを言うんです、〝やめておけ。戦など、死ぬまで出ない方がいい〟と。ああ、やっぱりそうなんだって思いました」
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