【前編】朝から晩まで楽しめる、おいしい奈良ごはん。
撮影・青木和義 文・小我野明子
[鹿の舟]ほかほかの炊きたてご飯。奈良だから、の朝ごはんがある場所。
空気が澄み渡って独特の静謐な表情を見せる、奈良の朝。そんな心地いい朝のひとときを、かまどで炊いた自慢のご飯と県産の食材を使ったおかずでもてなしてくれるのが、複合施設「鹿の舟」内にある、食堂『竈』だ。店内に「どん!」と鎮座する存在感たっぷりのかまどは、宇陀の職人が伝統工法で製作したもの。薪には、火が上がりやすい吉野の桧が使われているという。県内産の米は季節や収穫量などに応じ、数軒の農家と契約、かつて昭和天皇に献上されたこともある大和の「はんだ米」が食べられる日も。この米ならではの優しい味わいと大きめの粒の噛み心地を楽しませてくれる。自家専用地下水と厳選の飼料でいきいきと育った、ぷりぷりと弾力ある生卵をのせての、卵かけご飯もおすすめだ。同じく「鹿の舟」内にある『囀』は、シングルオリジンのドリップコーヒー、旬の食材を使ったランチやサンドイッチ、お菓子などを提供する喫茶室。地元で親しまれるパン工場、ブレーメンの厚切り食パンのトーストなど、土日祝だけのモーニングもチェックしておきたい。「鹿の舟」には他にも、大正初期に建てられた和洋折衷の建築を活かした観光案内や展示、イベントのスペース『繭』がある。これらの総合プロデューサーは「くるみの木」の石村由起子さん。2016年のオープン以来、奈良の伝統や生活文化を洗練されたスタイルで案内し、暮らす人、訪れる人を問わず、奈良を愛する全ての人々が集う場所となっている。
竃(かまど)●奈良市井上町11 ☎︎0742・94・5520 8時~18時 水曜休
囀(さえずり)●☎0742・94・9700 11時~18時(土日祝は8時~) 水曜休
近鉄奈良駅から徒歩17分、JR奈良駅から徒歩22分。奈良交通、市内循環バス「内回り」乗車、「田中町」下車すぐ
[ラ・トラース]奈良田生まれたストーリーのある食材を、極上のフレンチに。
例えば、阪原町の中家兄弟が育てた大和肉鶏。五條市の泉澤農園自慢の、ばあく豚。例えば広陵町のプライベートファーム、百済農園の野菜。そんな地元生産者の思いが詰まった食材に敬意を込めて、一皿一皿に丁寧に向き合う佐藤了シェフ。その姿がカウンター越しに見られる、小さなレストラン。佐藤シェフはブルゴーニュやバスクでの修業、東京・乃木坂『レストランFEU』でのスーシェフ、東京・麻布十番の『カラペティ・バトゥバ』で腕を磨くうちに「食材」「生産者」に興味を持ち始める。やがて、パートナーの若菜さんの実家がある奈良と縁をつなぎ、2016年6月にこのラ・トラースをオープンした。奈良は市街地からほんの少し離れるだけで豊かな自然が広がり、上質な肉、野菜、米、茶などの食材を手がける熱意ある農家も多い。東京でもフランスでもなく、あえてこの場所でレストランを営むからには「奈良だからこその素材を、ここでしか味わえない料理に」という思いが必然的に生まれる。この日にお目見えしたスナップエンドウ、トマト水のジュレは、「いろんなものを少しずつ、でなく、ひとつの素材をがっちり食べたいタイプ」というシェフならではの一皿。ばあく豚と桜の塩釜焼きは、ヨモギで彩られたまるで山のような岩塩の釜で豚肉を包み焼き。登場時にサプライズ感のある楽しい一皿だ。桜の葉と花の塩漬けで味付けし、ジューシーで甘みのあるばあく豚の味わいを春の香りで上品に楽しませてくれる。デザートにも、奈良の無農薬茶葉や大粒イチゴを使用。料理に合わせて提案する、ビオ系ワインとのマリアージュも全て心地いい。
●奈良市大宮町2・1・5 カーサヤマグチ1F ☎︎0742・33・4000 12時~13時30分(LO)、18時~20時(LO) 日曜、第1・3月曜休
『クロワッサン』947号より
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