『わたしたちの不完全な人生へ』ヴェロニク・オヴァルデ 著 村松 潔 訳──ままならない人生に訪れる愛おしい刹那
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
フランスのゴンクール短編小説賞を受賞した作品。海外小説ではあるけれど、まるで日本の隣人の話を読んでいるような気分になった。というのも、登場人物たちが置かれた状況や、彼らの心理状況が、もんのすんごく身近に感じられたのだ。
各短編の主人公たちは、なかなか人生がうまくいかない人たち。でも、確かに人生は“不完全”だけれども、それでも心に光がともるような、得難い一瞬がやってくることもある。
運転免許の試験の日に事故に巻き込まれたり、国家試験に受かったのに同姓同名の他の不合格者と間違えられたりと、不運につきまとわれているオーギュスト。彼は〈いつまでも不幸の裏階段でとぐろを巻いているわけにはいかない〉と転居を決意。内見のために待ち合わせた不動産屋の女性は素敵な人で、部屋も気に入り契約を即決。しかし……。次の短編ではその不動産屋の女性が主人公。各短編で、ゆるやかに人間関係が繋がっていく。
絶妙なユーモアと哀愁を交えて語られる各話は、派手ではないけれど滋味深く、どれもが“ありえた自分の人生”のように思える。これはきっと、みんな好き!
『クロワッサン』1161号より
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