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『自滅帳』著者 春日武彦さんインタビュー ──「13の小説に連想をかけあわせました」

人はなぜ自滅に近づいてしまうのか。その瞬間や予感を描いた13編の小説を紹介しながら、人の心の謎に迫る『自滅帳』──本を読んで、会いたくなって。著者の春日武彦さんにインタビュー。

撮影・石渡 朋 文・鳥澤 光

春日武彦(かすが・たけひこ)さん 1951年、京都府生まれ。「成仁病院」名誉院長。著書に『死の瞬間 人はなぜ好奇心を抱くのか』『恐怖の正体 トラウマ・恐怖症からホラーまで』など。『怪談の真髄 ラフカディオ・ハーンを読みなおす』が1月15日発売予定
春日武彦(かすが・たけひこ)さん 1951年、京都府生まれ。「成仁病院」名誉院長。著書に『死の瞬間 人はなぜ好奇心を抱くのか』『恐怖の正体 トラウマ・恐怖症からホラーまで』など。『怪談の真髄 ラフカディオ・ハーンを読みなおす』が1月15日発売予定

精神科医として長く臨床に携わり、エッセイや評論、小説、医学書などを数多く著してきた春日武彦さん。最新の一冊が書店や本棚でピンクの光を放つ『自滅帳』だ。シリーズの前作にあたる『自殺帳』から2年。“死の欲動”へと再び近接するエッセイが話題だ。

「『土人形の水遊び』という言葉があるんです。井原西鶴の浮世草子の一編がもとになって慣用句化したようなんだけど、初めて目にしたときは、なんて嫌な言葉なんだ!と衝撃を受けました」

自滅的な振る舞いを指すこの慣用句を紹介したあと、著者は水遊びをしながら次第に溶けていく人形の表情と胸中に思いをめぐらせる。7つの文字が“死の欲動”と共振し、妙な温もりをたたえて読み手に近づいてくるようだ。

「今回は小説ばかりを13編、自滅していく人物を描いた物語を取り上げています。作品についてあれこれ書くだけでもいいんだけれども、何かを読めば何かを思い出すし、思いもする。そういう記憶や妄想の断片も一緒に味わってもらおうという羽つき餃子主義の一冊です。自分で思ってもみないところまで行ってしまえるから連想ってどうにも楽しいんですよね」

イメージの飛躍について、〈距離が短すぎれば、それは当たり前・月並みということになる。距離が遠すぎれば、もはや意味が分からない。そこそこに遠い距離だと、ときに意外性や詩情、発見や驚きが生ずる〉とは、本書にある一文。人の心の働きへの興味が著者を駆動し、記憶の断片が文学をめぐる論考にエッセイとしての軽やかさを付加する。

自滅の様相を作家が書き、読者が読んだ先に現れるもの

ここで取り上げられるのは、パトリシア・ハイスミス、ウィリアム・トレヴァーなど海外の文学作品が7編。松本清張、吉行淳之介、林芙美子など日本の作品が6編。フィクションとして世に送り出された短編小説が“自滅”という観点から玩味され、観察される。登場人物たちは善か悪かの二項の間には立っておらず、「これが自分の身に起きたとしてもおかしくない」という生々しい気配とともにそこにある。これが怖い。

「彼らに共通するのはある種の“いじましさ”でしょうか。不幸を呼び寄せてしまうけれども、自分としてはそのつもりがない。なんでこんな目に遭うんだと被害者意識を抱くことさえある。これが私にとっての“自滅”のイメージです」

その姿を書く作家がいて、それを取り上げ、人の心に文学の言葉を灯す著者がいる。

「このイメージが人生に不可欠かと言われると分からないけど、出合わないよりはどこかで出合ったほうがいい。大概の人って自滅の可能性と無縁ではいられないし、むしろ隣り合わせのように人生を送っているんじゃないでしょうか。だから、自分の中にある悪やそれに類するものの扱い方を知る手がかりやヒントを、ここから見つけてもらえたらと思っています」

『自滅帳』 人はなぜ自滅に近づいてしまうのか。その瞬間や予感を描いた13編の小説を紹介しながら、人の心の謎に迫る。 晶文社 2,090円
『自滅帳』 人はなぜ自滅に近づいてしまうのか。その瞬間や予感を描いた13編の小説を紹介しながら、人の心の謎に迫る。 晶文社 2,090円

『クロワッサン』1157号より

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