矢本悠馬さんが語る、映画『ゴールデンカムイ』──「単なるモノマネにならないよう自分なりの一工夫をしています」
撮影・天日恵美子 スタイリング・檜垣健太郎 ヘア&メイク・高橋将氣 文・木俣 冬
「例えば、壮絶な切腹のシーンを撮影したあとに、その前のシーンを撮影するなんてことも少なくないんですよ」
切腹とは、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK)で矢本悠馬さんが演じた佐野政言の顛末。時代に翻弄されるやるせなさは涙なくしては見られなかった。
「レギュラーではない役の場合、短い出番のなかでいかに視聴者の方に想像力を膨らませてインパクトを残せるか、そういうことをいつも考えています」
悲劇の武士を演じたかと思えば、ヒロインの実直な幼なじみや、見事な包丁さばきの料亭の板前見習い、コメディではツッコミを担う。とりわけ人気漫画の実写映画『ゴールデンカムイ』で演じた脱獄王・白石由竹は原作にない表現すら原作ファンをも納得させた。
「原作リスペクトで、キャラクターの精神性や思考性を自分の体に投影しようと心がけます。でもそこに単なるモノマネにはならないように自分なりの一工夫をしています。役者の個性によって台本や役の解釈も違ってくるだろうし、むしろその独自性が勝負かなと思うんです。もちろんそれは視聴者や観客の皆さまが見ていてワクワクするものにしたいからなんですけれど」
あくまで受け手ファースト。白石の丸刈りもカツラではなく地毛で演じる。演技に誠実に向き合う矢本さんだが、俳優をはじめたころは迷いもあった。
「なんとなく俳優をはじめて、俳優として、社会人としてどうあるべきかよくわからない時期もありました(笑)。でもそういう僕のままでいいとオーディションで選んでくれたのが大人計画の長坂まき子社長でした」
下積み時代、松尾スズキ主宰の劇団・大人計画の研修生としての活動は転機になった。自分らしくいていい。その唯一無二の個性で観客を惹きつける、自分で自分に責任を持つことを学んだ。
「自分のパフォーマンスで客席にいる不特定多数の人たちを自分の客にするのだと教わりました。常識や礼儀を守ることで個性を消してしまうのではなく、守ったうえで心のなかにあるとんがったものをなくさずにいられる。そういうことを知った時期です」
12月は舞台『キャッシュ・オン・デリバリー』の出演も控える。休む間もない。そのうえイクメンでもある。
「今朝も子どもを保育園に送っていって、この取材が終わったら迎えにいきますよ」と充実の笑顔を浮かべた。
『クロワッサン』1154号より
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