開湯1300年の歴史ある庄内の温泉地に——世界的シェフのオーベルジュが誕生
写真・文 斎藤理子
庄内の食材にとことんこだわり、他に類をみないイタリアンを生み出す奥田政行シェフ。奥田シェフが腕をふるう《アル・ケッチァーノ》は、世界中からグルメが訪れるディスティネーション・レストランの先駆者的存在です。その奥田シェフが名旅館と出会い、念願だったオーベルジュをスタートさせたと聞き、さっそく体験しに行きました。
由緒ある名旅館《湯どの庵》と、世界的シェフとの出会いが生む極上時間
山形県庄内地方にある美しい城下町鶴岡市。その豊かで奥深い独自の食文化と、それを風土として守り育て後世に継承していく姿勢が評価され、日本で初めてユネスコ食文化創造都市に認定された街として知られています。
また、鶴岡市には《湯野浜温泉》《あつみ温泉》《湯田川温泉》《由良温泉》という国が指定する4つの“国民保養温泉地”があり、これは全国の市町村では最多の指定数になっています。まさに温泉天国の鶴岡市ですが、その中でも《湯田川温泉》は、鶴岡駅から車で約20分というアクセスの良さ。鶴岡の奥座敷と呼ばれ、開湯なんと1300年という歴史ある温泉地として人々に愛され続けています。
その《湯田川温泉》にある《湯どの庵》は、家具デザイナー、インテリアデザイナーとして著名な岩倉榮利さんの作品。宿プロデューサーとしての側面も持つ岩倉さんが大正時代の建物をリノベーションし、和の趣や情緒に洋の機能を融合。洗練された和モダンスタイルの先駆的旅館として、全国的にファンが多い著名旅館です。
そうした《湯どの庵》の経営を、長年オーベルジュでおもてなしをしたいと思い描いてきた奥田政行シェフが任されることになり、奥田シェフの夢がかなった《湯どの庵・オーベルジュ・フロム・アル・ケッチァーノ》として生まれ変わりました。
何もしない時間が宝物のような、美しく静寂に包まれた空間
奥田シェフは、岩倉榮利さんが手がけた館内にはほぼ手を入れず、設備だけを最新式にすることで、《湯どの庵》を過去と現代を紡ぐ宿として再生。静寂に包まれ凛とした空気が流れる館内は、頭を空っぽにしてそこに佇んでいるだけで日々のストレスが消えていきます。
温泉に浸かり、庭を眺めてぼーっとしていると、何もしない時間がまさにとっておきの贅沢に感じられます。
湯田川温泉の源泉からは毎分1000リットルもの硫酸塩泉が湧き出ます。《湯どの庵・オーベルジュ・フロム・アル・ケッチァーノ》ではその源泉を掛け流しで。肌に優しく柔らかな温泉が、日々の疲れを洗い流してくれます。
ディナーはアル・ケッチァーノで。庄内の旬の味覚を奥田イタリアンで堪能する
お待ちかねのディナーは、送迎車に乗って《アル・ケッチァーノ》へ。奥田政行シェフは、地産地消という言葉が登場するずっと前から、庄内の食材と生産者のみにこだわり、独自のイタリアンを創造してきました。
日本有数の漁場である庄内浜の魚介。最上川などの河川が運んできた肥沃な土壌とミネラル豊富な月山の雪解け水に満たされた庄内平野で採れるつや姫をはじめとする極上の米や、濃厚な味わいの野菜。庄内は在来野菜の種類が世界でもトップクラスの数を誇っています。そして、こだわりの生産者が育てる庄内牛、庄内山伏豚、羽黒緬羊などの極上な畜産物などなど、海から山に至るまで庄内のありとあらゆる食材が奥深い味わいにあふれています。
奥田シェフは、そんな豊穣な土地の恵みの旨みを最大限に活かすために濃厚なソースはなるべく使いません。極上のオリーブオイルと、庄内の海水を満月の日の満潮時に汲み上げ火入れして作る自家製の海塩を中心にした多彩な塩使いで味を組み立て、他では絶対に食べられない一皿に仕立てていきます。他の追随を許さないその独創的な発想で作られる料理は、驚きと口福の連続。世界中の人々がこの味を求めてやってくるのも納得です。
食材の意外な組み合わせが、口中で予想を超えた美味しさを生み出すのも奥田シェフの真骨頂。
たとえば、鮎と茄子。鮎の内臓の苦味と焼いた茄子の焦げ目の苦味が口中で旨味に変わる不思議さは、《アル・ケッチァーノ》に来なければ味わえません。脂の少ない豚肉をカリカリに焼いて、スイカと一緒に食べるという不思議な料理も、食べて見れば口中が肉汁で満たされる感覚になるという、驚きに満ちた体験に。鮎料理の後にきゅうりを使った料理が登場するのは、キュウリの香りがする鮎の余韻を楽しむため。などなど、緻密に構成されたコースの驚きと楽しさは、めくるめく奥田ワールド。わざわざ足を運ぶ価値があります。
採れたての庄内野菜と艶々の庄内米。ぐっすり寝た翌朝は体が喜ぶ朝食を
野菜たっぷりのディナーを食べて宿に戻り、温泉に入ったら安眠は約束されています。ぐっすり眠って目覚めたら待っているのは、こちらも野菜たっぷりの極上な朝ご飯。
主役は、お米食味コンテストで何回も金賞を受賞している井上農場のつや姫。奥田シェフは、朝食に出す炊き立てご飯のために、早朝に湯殿山の山奥まで湧き水を汲みにいきます。その清冽な水で炊いたつや姫は、何杯でもおかわりできる美味しさ。民田茄子の漬物や、井上農場の樹熟トマト、山形のだし奥田風、庄内浜の魚や魚卵など、庄内の食材にあふれた素晴らしいおかずの数々にご飯が止まりません。
2泊したら2日目の朝食は、周遊型豪華寝台列車《四季島》で奥田シェフが提供していたのと同じイタリアン朝食が出されます。こちらも庄内の野菜をふんだんに用いた、体が喜ぶヘルシーなご飯。特に、羽黒山の麓で放し飼いにされている健康な鶏が産んだ“わんぱくたまご”は、ぜひ体験してほしい美味しさ。美味しいオーガニック野菜と卵で体が浄化されるのがわかります。
庄内は出羽三山神社や、国宝の羽黒山五重の塔など見どころもいっぱい。1日では見切れないのでぜひ2泊して庄内の素晴らしさを堪能してみてください。
湯どの庵・オーベルジュ・フロム・アル・ケッチァーノ
山形県鶴岡市湯田川乙38
0235-35-2200
チェックイン15時 / チェックアウト11時
https://yudonoan.com
アル・ケッチァーノ
山形県鶴岡市遠賀原字稲荷43
0235-26-0609
11時30分〜13時30分LO、18時〜20時30分LO
月曜休み(祝日の場合翌火曜休み)
https://alchecciano.com/#TOP
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