『青の純度』篠田節子 著── 一大ブームとなったアートを巡るミステリ
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
篠田節子さんの小説はどれも面白いけれど、とりわけ主人公が海外に行く作品って、予想外のスケールの広がりを見せて圧倒させられる。本作もそう。
仕事一筋で生きてきた有沢真由子は50歳の誕生日、ジャンピエール・ヴァレーズの絵にふと目を奪われる。バブルの頃に日本で流行したものの、専門家からはスルーされ、エージェントの悪徳商法で評判を落とした画家だ。美術誌に携わった経験もある真由子も、彼の絵を馬鹿にしていたはずだった。興味を抱いた彼女は、彼に関する書籍を企画。国内で取材を始めるが謎も多く、ならば直接本人に会おうと、休暇を利用して彼が住むハワイ島へと向かう。が、現地でヴァレーズはまったくの無名人で所在も不明。少しずつ手がかりをつかんでいくが……。
ヴァレーズはマリンアートの画家。もうこれクリスチャン・ラッセンじゃん! と思いながら読むわけだが、ハワイのアート事情やダイバーの世界、さらにはハワイの日系人の歴史や現状も絡まって息をつかせないくらいスリリング。キャリア女性の組織内での鬱屈や葛藤、創作する側の思い、絵を鑑賞するということ等々、さまざまな要素も読み応えあり!
『クロワッサン』1149号より
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