【粋な東京街歩き】江戸から変わらない品を探す“日本橋”散策
撮影・幸喜ひかり 文・一寸木芳枝
《岩井つづら店》 つづら
東京唯一の職人が作る一生ものの日用品
江戸の商人が婚礼道具として売り出したのを機に、庶民に広まったというつづら。かつては関東に約250軒もの専門店があったというが、現在ではこの店だけに。竹、和紙、柿渋やカシューナッツの殻由来の漆など、つづらの材料はすべて自然のもの。軽くて丈夫、通気性に優れ、防虫、防カビ効果もあることから、日用品としてもSDGsの視点からも、改めてその良さが見直されている。
《神茂(かんも) 本店》 手取りはんぺん
江戸の台所、魚河岸から生まれた伝統の味
日本橋が魚河岸として賑わった当時、幕府の輸出品として貴重だった鮫のヒレ。その残りを利用し、蒲鉾の技術で製造されたのが店の看板商品「手取りはんぺん」。原料である青鮫とよし切り鮫の割合を4:6で長年守り続け、熟練の職人によって生み出されるその形は、中央が盛り上がり、ずっしりと重みがあるのが特徴だ。食べればふんわりと軽く、魚の旨みが口に広がり、余韻を残す。
《日本橋弁松(べんまつ) 総本店》 並六 白飯弁当
甘辛で濃ゆい、江戸っ子御用達折詰弁当
今ではめずらしい、木が香る経木の折箱。蓋を開けると中には、めかじき照焼、玉子焼、野菜の甘煮が仕切りに頼ることなく美しく鎮座。江戸っ子たちが好んだであろう甘く濃い味付けで、白米を進ませる。左上の端に慎ましく佇む豆きんとんもデザートとして愛されている一品。歌舞伎の幕間などに、着席のままパッと食べられるサイズと量もちょうどよく、世代を超えて愛されている。
《日本橋木屋(きや) 本店》 菜切庖丁(左)出刃庖丁(右)
創業当時からの商標が光る和庖丁シリーズ
庖丁に刻まれた「いづつき」の銘は、1805年ごろの江戸の風景を描いた絵巻物「熈代勝覧(きだいしょうらん)」にも見ることができる木屋の商標。現在は庖丁だけで500種以上を揃えるが、魚と野菜が食の中心だった当時からその使い勝手の良さが評判だった出刃庖丁と菜切庖丁は、今も人気商品。厳選した高純度原料を配合した安来鋼(やすきはがね)を職人がひとつひとつ打ち、美しい切れ味で人々の台所を支えている。
《榮太樓總本鋪 日本橋本店》 名代金鍔、甘名納糖ほか
不変のレシピで今も愛される江戸の生菓子
「梅ぼ志飴」(右上)を筆頭に、江戸時代から製法を受け継ぐ商品が揃う『榮太樓總本鋪』。「せっかちな江戸っ子に食べやすく」と、歯切れの良い餅が特徴の「西河岸(にしがし)大福」(右下)、川柳や流行歌も詠まれた「名代金鍔(なだいきんつば)」(左下)、大角豆は煮ても皮が破れず「腹が切れない=切腹しない」と人気になった「甘名納糖(あまななっとう)」(左上)など、いずれも随所に粋で洒脱な江戸っ子らしいエピソードが残る。
せっかく来たなら
日本橋のランドマーク 福徳神社 芽吹稲荷へ
源義家、太田道灌、徳川家康などの武将から厚く崇敬され、4度の遷座を経てなお「日本橋のお稲荷様」として親しまれる。最近では御祈祷に「観賞券当選」が加わったことから、演劇や舞台、ライブなど“推し活”に励む人たちが数多く参詣している。
『クロワッサン』1145号より
広告