ビジュアルも大きな話題! 必見すぎる玉三郎×染五郎×團子の新作歌舞伎『火の鳥』
文・クロワッサン編集部 撮影・岡本隆史
玉三郎さんは染五郎さん、團子さんと去年の歌舞伎座でそれぞれ共演。3人が一緒に舞台に立つのはこれが初めてのこととなります。その時の印象や得た学び、新作に取り組む気持ち、これからの歌舞伎に対して思うことなど、質問は多岐にわたりました。
――『火の鳥』という題材を歌舞伎に、と思われたのはどのような経緯でしょうか?
坂東玉三郎さん(以下玉三郎さん)「新しいものを作りたいと思っておりました。これまで過去に『雪之丞変化』とか『白雪姫』とかを演ってまいりましたが、既に数年前から『火の鳥伝説』を歌舞伎にするのがいいのではという思いがありました。なかなか実現には至らなかったのですが、去年から染五郎さん、團子さんとご一緒するあいだで「この方々と演るのがいいかな」と思って。脚本はもともと数年前にできていたんですけれども、ふたりに当てて改訂しながら今回に挑んだというわけです。原作ものではなく、歌舞伎の新しい演目が欲しいとつねづね思っていたので」
――『火の鳥』の伝説の魅力はどこにありますか?
玉三郎さん 火の鳥というのは不滅であるということがあります。ストラヴィンスキーはバレエで表現していますが、本当のというか、どこの国の火の鳥の伝説が正しいはちょっとわからないんですが、自分の命の限界が来た時に自分から火の中に入って再生する、それを繰り返すというのが火の鳥伝説だそうです。それをもとに今回の脚本を書いていただきました。火の鳥が自分の身の上を、ふたりの王子と病の王さまに話す、という筋立てになっています。
―――演出を担当された原さんに伺います。主にオペラの演出でご活躍されていて、今回歌舞伎座の演出をするにあたり、経験をどのように生かしたいと思われますか?
原純さん 今回のお話をいただき、まず私自身がいちばん驚いております。ただ、オペラと歌舞伎は生まれた時代が大体同じくらいなんですよね。なおかつ歌があって、踊りがあって進行していくお芝居という概念では、私は全く一緒のものであると感じております。その概念を踏まえながら、玉三郎さんとこの数ヶ月何度も打ち合わせをしていますが、やはり求めてるものというは美であったり、お客さまにどれだけ喜んでいただける舞台を創造するかと、いうことです。そういうことにおいては変わりはないと思っております。
――市川染五郎さんと市川團子さんに伺います。今回の役はどのようなものでしょうか。また昨年、玉三郎さんの指導を受けて勉強になった、印象に残っているところはありますか?
市川染五郎さん(以下染五郎さん) 今回はヤマヒコという役を演らせていただきます。伝説上の生き物である火の鳥を、弟のウミヒコとともに追って旅に出るというお役です。火の鳥を捕まえに行くだけでなく、火の鳥から生きることの意味や精神のようななにか大きなものを授かるようなお役だと思っております。 玉三郎のお兄さんとは昨年の9月10月とご一緒させていただきまして、9月は『吉野川』という古典の大作で、10月は『源氏物語』という新作で。本当に、役の内面的な細かい部分もご指導いただきましたし、その役だけでなく役者としてお芝居をしていく上で大切なことをとても学ばさせていただいて。一番は声の出し方です。人体の断面図を見せていただき『こういう風に空気が通るからこういう声が出るんだ』と。それは本当に新鮮な経験で、それを経て他のお役も経験させていただいてますが、自分でもとても声の出し方が変わったなと感じます。もちろん今でも教えていただいたことを毎回意識しながら舞台に臨んでいます。
市川團子さん(以下團子さん)ウミヒコの役なのですが、兄のヤマヒコは王位を継承する、こちらは弟なので継承しないという若干しこりがある役ということになっています。その関係性が火の鳥から学びを受ける。 昨年の12月に『天守物語』で玉三郎さんと共演させていただきまして、学んだこととして思い浮かぶのは、自分に関してはセリフの語尾です。どうやって歌舞伎座の奥まで一語一句届けるか、感情を載せて届けるかと。『天守物語』の物語の解釈もすごく深いところまで教えていただきまして、その台本を読み解く方法は、今も自分の台本解釈に非常に大きな財産になっております。
――新作『火の鳥』は、観客にとっても初めての観劇経験となります。観た人に何を持って帰ってもらいたいでしょうか。伝えたいものは何でしょう?
玉三郎さん とにかく「観てよかったな」と思ってもらえますように。
伝えたいことの意味は言えないですよね、そういうふうにご覧になってしまうので。自由に見ていただいて、観てよかったと思っていただければと思います。
染五郎さん 自分は玉三郎さんの演出作品をいろいろ拝見させていただいて、いつも演劇の部分だけでなく、舞台美術や衣装、化粧など、芸術的な部分もとても計算をされておられることを感じています。今回もそういったことをお客様に感じていただける舞台になるのではと思います。
團子さん 自分もまずは観てよかったなと思っていただきたいと思います。 今できている台本を読むと、セリフは歌舞伎に近いところと、すごく現代的なところが混ざっている。それが今回オペラの演出家の原純さん演出に入っていただいているところなのかなと思っています。その融合がどういう形で舞台に美しく出るのかがすごく私自身楽しみで、ひとつの見どころかと思います。同時に自分も深まらなければいけないと。
玉三郎さん 補足しますとね、初めてのものなのでよくわからないんです。 今回、原さんに委ねて吉松隆さんという素晴らしいコンポーザーの方の音楽を使うんですけども、歌舞伎座でこの音楽でいいのかって言われると、それはわからない。それがどのくらい歌舞伎座に新しい空気というか、風を吹かせるかということなんです。それが歌舞伎座的じゃないと言われてしまえばそれまでなんですけど…。そういうものも引っくるめて、先ほどの美術的なものであるとか、いい空間を楽しんでいただきたいというのが僕の思いです。
――玉三郎さんに質問です。昨年染五郎さん、團子さんとそれぞれ共演されていますが、その時の印象と今後期待することは?
玉三郎さん 非常にまっすぐに生きていらっしゃる2人だと思うんですね。 やっぱり舞台に対して素直で謙虚であるということが大事。他の方がそうじゃないというわけではないんですけれども。染五郎さんもいろいろな仕事もなさるようになって、團子さんも『ヤマトタケル』とかなさるようになって、でもこの人たちが素直で謙虚な人かどうかかは舞台を見るだけではわからなくて、とりあえず共演して小さなものでもやっていって、と。それで私の中ではふたりともそうであるということを確信を得ました。素直で謙虚であることは、どんな芸術家、舞台人でも音楽家でも絵画でも、一生進歩し続けられる鍵だと思うんです。ふたりともそれを十分に持っていると思ったので、ご一緒しているんです。
――染五郎さん、團子さんに伺います。今回共演するにあたってどのように作り上げていこう、などの話はされていますか?
染五郎さん 團子さんもおっしゃっていたように、この兄弟の関係性とか距離感が、火の鳥を追い求めていくというところとはまた別の筋になっています。これから稽古に入るので話し合って作らなければいけないなと思っています。今月も歌舞伎座で『蝶の道行』でご一緒させていただいていて、恋人役と兄弟役で距離感が違うと思いますけれども、今月作った2人の距離感、熱量のままこの『火の鳥』に臨めたらいいなと思っています。
團子さん もちろん自分も同意で、染五郎さんとは昔から自分が思ったこと、ここはどうだろうという思いを伝え合うコミュニケーションを取っています。お芝居のときにお互い意見をぶつけあって「こういうパターンもあるし、こういうパターンもあるよね」「じゃあ、こっちのパターンにしよう」と決めて作っているという感じで。特にこういう新作のときはセッションで作ることが大事なので、この関係はとてもいい方向に向くんじゃないかな、と思っています。
出演は他に松本幸四郎など。歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」8月3日(日)から26日(火)まで。チケット発売中。
広告