『ふたり暮らしの「女性」史』伊藤春奈 著──値踏みされることを、はねのけて生きる
文字から栄養。ライター・瀧井朝世さんの、よりすぐり読書日記。
文・瀧井朝世
およそ百年前。今よりももっと、結婚して家庭を持つことが当然とされていた時代に、女性のふたり暮らしを実践した人たちがいた。彼女たちの足跡を辿るノンフィクションである。
陸上競技選手で日本人女性初のオリンピックメダリストとなった人見絹枝と、体操塾の仲間で彼女を支えた藤村蝶のほか、パイロットとなった女性たち(その後、太平洋戦争前に女性が飛行機に乗るのは禁止となった)、女性山師、初の女性騎手を目指した人物と、彼女らと暮らした女性とのエピソードが語られていく。
そのふたり暮らしの生活ぶりが紹介されるというより、それぞれの生い立ちや、なぜその職業に就いたのか、そこで何が起きたのかが丁寧に語られていく。実績を残した、もしくは残しそうな女性が男性社会の中でいかに蹴落とされ、見下され、茶化され、ゴシップのネタにされてきたことか。特にメディアの女性アスリートに対する下衆なはやし立てにはぞっとする。
苦難を抱えながらも自らの道を歩んだ彼女たちに圧倒されつつ読了し、ぱらっとめくり返して目に入った序章の「値踏みされたくない」という言葉が胸に刺さった。本当に、本当にそうですよね。
『クロワッサン』1142号より
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