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【前川知大さん】劇団員5人だからこそ作り出せる異様な空気感を──演劇『ずれる』

先日、主宰する劇団イキウメの本公演作品が読売演劇大賞演出家賞と作品賞を2年連続W受賞。まもなく待望の新作『ずれる』が上演される。

撮影・五十嵐一晴 文・黒瀬朋子

前川知大(まえかわ・ともひろ)さん 劇作家、演出家。1974年生まれ、新潟県出身。2003年に「イキウメ」を結成。’24年『人魂を届けに』で読売演劇大賞最優秀作品賞、優秀演出家賞、’25年『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』で読売演劇大賞最優秀演出家賞、優秀作品賞を受賞
前川知大(まえかわ・ともひろ)さん 劇作家、演出家。1974年生まれ、新潟県出身。2003年に「イキウメ」を結成。’24年『人魂を届けに』で読売演劇大賞最優秀作品賞、優秀演出家賞、’25年『奇ッ怪 小泉八雲から聞いた話』で読売演劇大賞最優秀演出家賞、優秀作品賞を受賞

SF的なあり得ない設定も現実と地続きに「ある」世界のように思わせ、物語を通して投げかけられた問いは観劇後もいつまでも体内に残る。前川知大さんの創る舞台はそんな豊かな演劇体験をもたらしてくれる。先日、主宰する劇団イキウメの本公演作品が読売演劇大賞演出家賞と作品賞を2年連続W受賞。まもなく待望の新作『ずれる』が上演される。

「動物として本来持っているはずの第六感とか霊的な感性を人間だけが失ってしまったんじゃないか。イノシシが豚になったり、オオカミが犬になったり、文明が進み、人間と共生するには荒々しい野生であるより、従順なほうが動物として遺伝子を残していけます。社会に弱体化させられる『自己家畜化』みたいなことに興味を持ち、今回は書き始めました」

イキウメの俳優は5人。皆ドラマや映画で活躍しているが、劇団公演での異様な佇まいには毎度驚かされる。逸脱した人間や、底知れぬ不気味な人、時には人間以外の存在など、演技とは別次元に思えるほどリアル。「独特の空気感があるとよく言われます(笑)。普通の舞台なら耐えられないような長い間もイキウメの舞台では見られると他の演出家の方々に言っていただいたことがあります」

「目に見えないもの」がモチーフになることが多いせいか、イキウメの舞台では、観客は感覚をことさら研ぎ澄まし、想像力をフル稼働して、目の前で起きている登場人物たちの奥にあるドラマを同時に味わう。
「ウチの役者たちも最初からできていたわけではないです。これはもう、劇団として20数年間積み重ねてきた結果だと思います。僕の演出意図を理解して動いてくれますし、稽古前に第六感を鍛えるようなゲームを遊び半分でよくやっていたんですが、それが効いている気がしますね。表現したいという思いや作為なく、ただ舞台に『いる』という一番難しいことができるようになりました」

俳優は主張することよりも受け取る能力のほうが大事だと前川さんは続ける。相手の発する空気をキャッチすることで、そこで交わされる会話は新鮮になり、観客は余計なノイズを拾うことなく物語に没入できるのだ。イキウメは22年間、年に2回ずつ本公演を行ってきたが、今回を最後に少しお休みするのだそう。
「映画や音楽と違って、舞台はその時に観ないとあとから追いかけて触れることができません。コンスタントに公演を続けていかないと劇団の存在も忘れ去られてしまうという思いがあったんですね」

しかし、多くのファンを獲得し、定期公演にこだわらなくてもいいのではといったん立ち止まることにした。

「メンバーが仲違いしてお休みするわけじゃないので(笑)、リーディング公演やイベントなど、本公演とは違う形でお客さんと繋がる企画をできたらと思っています。今回は5人だけの舞台なので、僕も楽しみ。異様な空気感を最大限作るつもりです」

イキウメ『ずれる』

社長を務める兄の家で引き籠もる弟。弟は、近所で吠える犬について「あの犬は犬であることをやめるだろう」と予言し始めた。
作・演出:前川知大
出演:浜田信也、安井順平、盛隆二、森下創、大窪人衛
東京公演:5月11日(日)〜6月8日(日)、シアタートラム
(問)エッチビイ TEL:03-5726-9803 https://www.ikiume.jp 大阪公演あり

『クロワッサン』1141号より

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