子どもが成長しているのに自分は停滞している、そんな感覚に共感——仲間由紀恵さん
撮影・小笠原真紀 スタイリング・十川ヒロコ(THIS) ヘア&メイク・杉田和人(POOL) 文・野沢愛也子
「母親としてもう少し子どもとの会話があれば……と、もどかしいところもあるのだけど、子どもの成長速度に対して、自分だけ停滞しているように感じる感覚は、私自身も共感できるなと思って演じました」
映画『STEP OUT にーにーのニライカナイ』で2つの仕事を掛け持ちしながら家族のために奮闘するシングルマザー・朱音(あかね)を演じた仲間由紀恵さん。言葉ではなく現金を渡して子どもを労おうとしたり、息子を思うばかりにオーディションでタブーを犯そうとしてしまったり……。
口下手で不器用な朱音の愛情と、息子・踊(よう)の葛藤がぶつかり合う様子など、リアルな親子の形が描かれる。
「踊に対して強く当たってしまうシーンは難しかったですが、朱音もそうなるまでにいろんな感情が揺らいだはず。気持ちを固めて演じ切らずに、ああ図星だな、後ろめたいなと、ゆらゆら動くその時の感情をありのままに表現できるように集中して臨みました」
10年ぶりのタッグとなった堤幸彦監督のオファーのもと、撮影は基本的に沖縄ロケ、スタッフも地元出身のメンバーで構成。堤監督の発想をスタッフみんなで面白がってテンポよく撮影していく現場は昔と変わらず、懐かしかったと振り返る。
「スタッフ同士何でも言い合える明るい現場で、撮影中に突然浮かんだアイデアが採用されることもよくありました。私が喋る後ろに車のライトが欲しいから、車が来るまで待ってみたり、踊に渡す現金を洗濯バサミに挟んでみたり。『TRICK』の時にも感じましたが、至る所に堤監督のセンスが光っているはずです」
仲間さんは、今も定期的に帰省する故郷でも、今回初めて知った新しい沖縄の一面があったという。
「踊が通うダンススクールがあるのがコザという地域。一度も行ったことがなかったのですが、基地が近いからかなりアメリカナイズされた場所なんです。私の出身地の浦添市とは全く違う雰囲気で新鮮でした」
最後に、突然訪れたチャンスに夢を見て海を越えた“理想郷”を想像する踊になぞらえて、仲間さんが現状を打破して目指したい理想郷を聞くと、意外な答えが返ってきた。
「停滞していることだらけですよ。片づけられていない自分の荷物や段ボールもたくさんありますし、生活を整えてもっと理想の生活にしたいところです(笑)」
子どもたちを不器用ながらに支える朱音の姿は、子を持つすべての母親、そして夢を追いかける若者に響くはずだ。今作は沖縄の雄大な自然の音を生かすよう、あえて音楽がほとんど使われていないのも印象的。ぜひ劇場で体感を。
『STEP OUT にーにーのニライカナイ』
沖縄を舞台に堤幸彦監督が地元出身の映画監督・平一紘を共同監督に迎え、オール沖縄ロケで撮影。ダンスを通してひとりの少年の挑戦と成長、そして家族の絆を描く。
脚本:谷口純一郎
出演:仲間由紀恵、Soul、又吉伶音、伊波れいりほか。
沖縄県で先行公開。現在、全国公開中。
ノースリーブドレス20万9000円、ショートジャケット22万円(共にFABIANA FILIPPI TEL.03・3239・0341)
『クロワッサン』1137号より
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