アロマセラピスト・中村姿乃さんが語る生涯の一冊 『ピアノの森』(一色まこと)
撮影・森山祐子 文・黒澤 彩 構成・中條裕子
一度は離れたピアノに再び出合わせてくれた
もっとも大切な本が、必ずしも職業につながるものだとはかぎらない。アロマセラピーや植物療法の講師として活躍する中村姿乃さんにとっては、趣味のピアノに導いてくれた漫画『ピアノの森』が生涯の一冊なのだそう。
「10年ほど前、もう一度ピアノを弾きたいという気持ちがくすぶっていた頃に読んで、心に火をつけてくれた漫画です。全26巻を年に1回は通して読み返していて、もう何度読んだかわかりません。それなのに毎回涙ぐんでしまうので、電車内や喫茶店などで読まないように気をつけています」
主人公は、ピアノを自由に弾いて育った天才肌の少年。ライバルたちとともにピアノコンクールの最高峰であるショパン・コンクールを目指す物語。
「天才肌の主人公はもちろん、ライバルも含めた登場人物たちが皆、ひたむきに、純粋にピアノと向き合う姿に心を打たれます。好きなことをとことん追求する幸せと、好きだからこその厳しさや迷いみたいなものも描かれていて、仕事などで自信がなくなりそうなときにも励まされます。ピアノだけではなく、いろいろな意味で背中を押してくれる本かもしれません」
中村さんが最初にピアノを習ったのは、小学生になった頃。一時期は毎日8時間も練習するほど夢中になった。
ショパンが好きで、まだその段階に達していないとわかりながら「革命のエチュード」に挑戦したことも。この曲を弾きたいと熱望するのは、ピアノを習っていた人が共感する“あるある”なのだそう。
中学受験を機にレッスンをやめ、それ以降も時々再開してはみるものの、思ったほどうまく弾けず、小学生時代のレベルまで戻れないもどかしさを感じて諦めてしまっていた。
「やめてからも音楽は好きで、バンドのボーカルをしたりしていました。ライブにもよく行ったのですが、不思議と、歌っている人よりもピアノのほうに目がいってしまうんです。ピアノに対して後ろ髪引かれる思いはあったのでしょうね。友人に『ピアノの森』を薦められて読み、やっぱりピアノが弾きたい!という衝動に駆られました」
そのとき、ブランクは20年以上。不安もあったが心機一転、かつて熱心に練習したクラシックではなく、ジャズピアノを始めることにした。
「まだまだ下手なんですけどね。仕事のあとも1、2曲弾いて気分転換するのが習慣です。子どもの頃みたいに、先生に丸をつけてもらって次に進むためではなくて、自分のために弾く喜びをしみじみと感じています」
森に捨てられていたピアノを弾いて育った一ノ瀬海や仲間たちが、ショパン・コンクールに挑む姿を描く。
『クロワッサン』1136号より
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