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木内昇さんと風情豊かな「お江戸東京文学散歩」

江戸の市井の暮らしを描いた物語を数多く紡いできた木内昇さん。愛する江戸を描いた作品にまつわる場所を、今の東京で巡ってみた。

撮影・黒川ひろみ 構成&文・中條裕子

『むらさき』と小石川

宝暦(1751〜64年)の頃、老婆の眼病を閻魔大王が自身の右目を与えて治し、感謝した老婆が好物のこんにゃくを断ってそれをお供えし続けた、と伝えられる。以来、本堂に安置されている像は「こんにゃく閻魔」とも称され、篤い信仰を集めている。源覚寺 東京都文京区小石川2・23・14 TEL.03・3811・4482 10時〜17時 春日駅、後楽園駅からそれぞれ徒歩3分。
宝暦(1751〜64年)の頃、老婆の眼病を閻魔大王が自身の右目を与えて治し、感謝した老婆が好物のこんにゃくを断ってそれをお供えし続けた、と伝えられる。以来、本堂に安置されている像は「こんにゃく閻魔」とも称され、篤い信仰を集めている。源覚寺 東京都文京区小石川2・23・14 TEL.03・3811・4482 10時〜17時 春日駅、後楽園駅からそれぞれ徒歩3分。

江戸の郊外の雰囲気を体感しながらそぞろ歩く

江戸の不思議譚をこよなく愛する木内さん。自身も江戸を舞台にした奇譚集を記しているが、その中に「初音の里」という地が登場する。浅草橋から女性の足で歩くのにかなり難儀する田舎として描かれているが……。

「朱引きという赤い線が王子くらいまで網羅していて、その内側に墨引きといって黒い線が引かれたエリアになっている。そこが江戸の中心、八丁堀の同心が見回る地域です。当時の江戸というとその辺り。初音の里は今の小石川の源覚寺を中心にした辺りのようですが、当時は郊外という感じでしょうか」

徳川光圀の弟である松平頼元が屋敷を構えた庭園跡。ホトトギスの名所として知られていた。現在は高低差のある斜面地の地形を利用した公園となっている。 占春園 東京都文京区大塚3・29  8時〜19時(10月〜3月は17時まで) 茗荷谷駅から徒歩7分ほど。
徳川光圀の弟である松平頼元が屋敷を構えた庭園跡。ホトトギスの名所として知られていた。現在は高低差のある斜面地の地形を利用した公園となっている。 占春園 東京都文京区大塚3・29  8時〜19時(10月〜3月は17時まで) 茗荷谷駅から徒歩7分ほど。

今は初音町と称される一帯は、寛永元年(1624年)に源覚寺境内に門前町が立ったことから、人が多く住むようになったという。小石川植物園の敷地にあった白山御殿の森がホトトギスの名所で、初鳴きがここから始まると言い伝えられたことから、この辺りをそのように称したのだという説も。雅な名前で呼ばれていたが、物語の中では「侘しい場所」として描かれる。

「実際に歩くと、小石川植物園からこの近辺は坂が多いのでおもしろい。茗荷谷はその名前のとおりちょっと土地が下がったりするんですよね。白山まで行くと昔の三業地、花街みたいなものもあったりしたんですけれど、あまり昔の建物などは残っていないんです。その中でも変わらないのは高低差。文京区は坂が多いので、後楽園のほうもおもしろいと思います。特別な史跡でなくても歩いて楽しめますよ」

「ここら辺はとにかく坂の町」と木内さん。こちらは小石川植物園に沿った長い坂道となっている。
「ここら辺はとにかく坂の町」と木内さん。こちらは小石川植物園に沿った長い坂道となっている。

そう木内さんも語るとおり、小石川の源覚寺から小石川植物園を抜けて茗荷谷へと向かう辺りには、そこかしこに坂があって歩きがいがある。

「ある場所から別の土地へ行くのにどのくらいかかるのか調べるために、実際に古地図を持って歩いたりしています。特に勾配などが知りたくて。道や川は変わったりしますが、勾配は当時と変わっていないので、小説を書くのにいろいろとヒントになるんです」

木内昇さんと風情豊かな「お江戸東京文学散歩」

『化物蠟燭』(木内昇、朝日文庫、792円)

江戸の市井を舞台にした、7つの奇譚集。その中の『むらさき』は、紙問屋に奉公する若い娘と、江戸郊外の初音の里に引きこもり、世捨て人のように暮らす謎多き絵師との不思議な縁を描く。

  • 木内 昇

    木内 昇 さん (きうち・のぼり)

    作家

    2004年『新選組 幕末の青嵐』でデビュー。’11年『漂砂のうたう』で直木賞受賞、’14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞ほか受賞。近著『雪夢往来』など著書多数。

『クロワッサン』1136号より

03 / 03

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