木内昇さんと風情豊かな「お江戸東京文学散歩」
撮影・黒川ひろみ 構成&文・中條裕子
『半七捕物帳』と山谷堀~向島
大川の流れを感じながら江戸の風情を満喫
待乳山聖天のすぐ脇から三ノ輪方面へ延びているのが山谷堀公園。かつては水路で、隅田川へと注いでいた。
「この辺りは活気のある街だったので時代小説の舞台になりやすい気がします。『半七捕物帳』の主人公である、元岡っ引の半七は神田生まれ、生粋の江戸っ子。半七は謎解きで事件を解いていくけど、結局何だったんだろう?という話もすごく多い。そこがおもしろい。暗いところ、底が見えないところに何かいるんじゃないか、という感覚。それが江戸っ子らしい」
そんな半七が活躍したのが、この山谷堀から隅田川を渡った先の向島辺り。吉原も近く、かつてはこの山谷堀を猪牙舟に乗り、吉原へと向かうのが贅沢な遊びだった。
今では埋め立てられて細長い公園となっているが、道路のところどころに橋跡の親柱が残っている。公園を隅田川方面へと辿ると広場に到着。そこに架けられた桜橋を渡れば、向こう岸はもう向島だ。
「ここら辺りは川幅も当時とは変わってはいるけれど、神社仏閣が多く、江戸を強く感じられるのかなあと思います。当時食べていたものが残っていて同じものを食べられる楽しみもある。浅草寺界隈の賑わいともまた違う雰囲気があります。どのように吉原に通っていたのか——船で行くのか日本堤から行くのか、行き方も何通りかあるのを調べてみたり、古地図を片手に巡るのもおもしろいのではないでしょうか」
山谷堀公園をぶらぶらと歩き、9つあったという橋跡を見ながら隅田川まで。橋を渡った先で少しひと息つきたくなったら、橋詰にある『向島 言問団子』へ。店内で熱々のお茶と一緒にお団子を頬張りながら、ひととき江戸へと思いを馳せることができる。
『半七捕物帳(六)』(岡本綺堂、光文社文庫、748円)
20年にわたり綺堂が書き上げた「捕物帳の教科書」ともいえるシリーズ。63話「川越次郎兵衛」では山谷堀から向島にかけての一帯が舞台となっている。ほか短編でも向島はたびたび登場するエリア。
立ち寄り処
『向島 言問団子』
江戸末期創業の菓子舗、茶処。串にささない、あっさりとした甘味のお団子は、創業以来の味を受け継ぐ。団子の名前は在原業平の和歌にちなんだもの。
東京都墨田区向島5・5・22
TEL.03・3622・0081
営業時間:9時〜17時
休日:火曜、最終週水曜
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